研究チームによると、室温下でノイズ発生の起源となっている酸化膜中の欠陥は、酸化膜中の原子が1つ抜けたものだといい、同様に界面欠陥も界面にあるべき原子が1つ抜けたものだという。このように原子1つが抜けて欠陥ができると、それに付随して周りの原子がわずかに動き、原子位置が乱れる。酸化膜中の欠陥、界面の欠陥および原子位置の乱れは、電流を流している電荷を捕獲したり放出したりするため、これによって電流が変動し、ノイズが発生することになるのである。

  • トランジスタ界面に存在する原子位置の乱れがノイズ発生の起源。それをイメージしたもの。

    トランジスタ界面に存在する原子位置の乱れがノイズ発生の起源。それをイメージしたもの。(出所:産総研Webサイト)

原子位置の乱れは、トランジスタを室温で動作させる場合にはノイズへの影響はほとんどなかったとのこと。しかし、今回の研究成果によって、極低温で動作させる場合にはこのような微小な原子位置の乱れまで考慮する必要があることが確かめられたとする。

つまり、極低温環境では微小な原子位置の乱れが生じるような欠陥を削減することでノイズを低減できるということになる。ノイズの低減は、量子ビットのコヒーレンス時間を延ばし、量子コンピュータの1回の処理で実施できる演算回数を増加させる。このような高性能化が実現されることで、量子コンピュータの実用化に必要な性能の実現につながるとしている。

研究チームは今回得られた成果について、シリコン量子ビット素子の性能向上にも役立つとする。シリコン量子ビット素子はトランジスタと類似の素子であり、同じノイズ発生の起源を持つ。そのため、同じようにノイズ発生の起源を削減していくことで、シリコン量子ビット素子そのものから発生するノイズも低減化でき、シリコン半導体型量子コンピュータの高性能化にもつながっていくことが考えられるとした。

また今後は、今回得られた成果から、ノイズ発生起源削減技術を用いた制御用集積回路やシリコン量子ビット素子を用いた大規模集積量子コンピュータの実現を目指すとしている。