今回は、赤外線天文観測への応用可能性を実証すべく、3枚の球面からなるコージライト製試験光学系が製作された。一般的に光学系の組み上げでは、レーザーなどの光を入射してできる像や波面を見ながらアライメントが調整されるが、この試験光学系では機械的なアライメントのみで組み上げられたという。
具体的には、まず配置の基準となるブロックを、接触式3次元測定器を用いて位置を測定しながら光学定盤上に配置。次に、鏡と保持具が一体となったミラーユニットを、それに施した基準面が、先に配置したブロックの基準面に接するように設置。こうして組み上げられた光学系に対し、光学面が想定通りにアライメントされていることも3次元測定器で確認されたとする。
この試験光学系の波面誤差を、レーザー干渉計を用いて、冷却前(絶対温度300K、約27℃)、冷却状態(80K、約-193℃)、昇温途中(200K、約-73℃)、そして昇温後(300K)において測定したところ。いずれの温度においても、回折限界の光学性能が達成されており、しかも常温(300K)から低温(80K)への冷却過程で波面マップのパターンがほとんど変化していなかったという。
なお、無視できるレベルだが、昇温時に限って波面誤差のわずかな変動が見られたとする。そこで、さらに3回の熱サイクルにかけて波面誤差を測定したところ、これ以上の変化は起こらないことが確認された。この変動は、締結部のヘリサートの挙動で説明できたという。このことから、試験光学系において期待通り「機械的な組み上げのみで高精度アライメント」と「高い温度安定性」が実現できていることが実証されたとしている。
現在主力の口径10m級の地上望遠鏡では、補償光学技術の進展により、近赤外波長まで回折限界の解像度が得られるようになってきており、また高感度の大フォーマット赤外線検出器が普及したことで、より広視野(分光では広帯域)の観測が可能となってきている。しかし、従来の天文観測装置で用いられている光学系は、それら近年の技術の進展を最大限に活用できていないといい、今回のようなコージライト製反射光学系を用いることで、高波面精度、広視野、高感度を兼ね備えた観測装置を、より容易に実現できるようになるとする。
LiHでは現在、神山天文台の主力装置として、コージライト製反射光学系を用いた近赤外線高分散分光器「VINROUGE」の開発を進めているところで、同等の観測波長帯・波長分解能を持つ装置の中で、世界最高の感度達成を目指すとしている。