京都産業大学(京産大)は6月6日、反射光学系の全コンポーネント(鏡・保持具・定盤)を、超低熱膨張セラミックのコージライトで製作し、機械的に組み上げるのみで高精度なアライメントを完了するという試験光学系を製作したことを発表。
その性能評価をレーザー干渉計を用いて行った結果、可視波長における回折限界性能を達成し、その性能は低温環境下でも維持されていることを確認したと併せて発表した。
同成果は、京産大 神山天文台 赤外線高分散ラボ(LiH)の猿楽祐樹主任研究員らの研究チームによるもの。詳細は、米国光学会が刊行する光学およびフォトニクスに関する全般を扱う学術誌「Applied optics」に掲載された。
反射光学系は、透過光学系にない長所を多数有しており、理想的な光学設計の実現に適している。しかし、透過光学系と比較して高い波面精度の達成が難しいという短所も存在するため、天文観測用装置のような高度な開発では、必ずしも反射光学系が最善の選択となるわけではないという。
この状況を打破するアイデアの1つが、反射光学系の全コンポーネントを同一材料で製作し、機械的に組み上げるのみで光学系を実現するというものだ。近年発展している超高精密多軸加工機などを用いてパーツを製作することで、光を用いて確認しながら調整する従来の煩雑な作業を必要とせずに、高いアライメント精度の達成が可能になるという。また、同一材料ならではのコンポーネント間の熱膨張率のミスマッチを取り除くことで、温度変化によるアライメントの変化や破損への対策も格段に低減されるとする。
ただしその実現には、鏡材と構造材の両方に使用できて加工性もよい材料が必要となる。今回研究チームがコスト面も考慮した中で着目したのがコージライトである。セラミック材は研磨に適度な硬さを持つことから、鏡基板への利用の関心が持たれてきたが、多孔質である(研磨面にボイドが生じる)ことが実用の妨げとなっていたという。それが近年、ボイドレスの製品が開発され、光学ガラスと同レベルの高品質な研磨面を実現できるようになってきたとする。
また、コージライトはもともと構造材として使われてきた材料であり、保持具や定盤として利用できる機械特性を持つ。セラミック材は、焼結前の柔らかい状態で完成品に近い状態に成型加工できるため、ブロックから削りだす金属やガラスよりも複雑な形状を実現しやすいという利点もあるとする。そしてコージライトは、焼結後の仕上げ加工により、通常の金属機械加工と同等の高寸法精度の部品を製作することも可能だ。
組み上げられたコージライト製反射光学系は、単一材料ゆえのアサーマル性を持つだけでなく、超低熱膨張材ゆえの高い温度安定性も有する。究極的には、セラミックの複雑な3次元形状の成形能力を活かした接合部のないモノリシックな(つまりアライメントの必要すらない)光学系の実現も期待できるとしている。