上肢運動機能の測定にあたり、まず、特別養護老人ホームに入居している参加者の利き手の手首に、加速度センサとジャイロセンサを搭載した腕時計型ウェアラブルセンサを装着。同センサにより、グループで行うドラム演奏中の腕の振りの速さの平均値と腕の挙上角度の平均値が抽出された。なお参加者の平均年齢は86歳で、事前のミニメンタルステート検査で30点満点中1~27点(平均15.75)と、認知症の程度を限定しない16人が参加した。

  • ドラム演奏中の腕の動きの計測。利き手の手首に加速度センサとジャイロセンサを搭載した腕時計型ウェアラブルセンサを用いて、ドラム演奏時の腕の動きから腕の振りの速さの平均値と腕の挙上角度の平均値が測定された。

    ドラム演奏中の腕の動きの計測。利き手の手首に加速度センサとジャイロセンサを搭載した腕時計型ウェアラブルセンサを用いて、ドラム演奏時の腕の動きから腕の振りの速さの平均値と腕の挙上角度の平均値が測定された。(出所:東大Webサイト)

  • ドラム演奏中の腕の動きの算出の計算式。ドラム演奏中の腕の振りの速さの平均値と腕の挙上角度の平均値を加速度センサとジャイロセンサで計測し、算出された。

    ドラム演奏中の腕の動きの算出の計算式。ドラム演奏中の腕の振りの速さの平均値と腕の挙上角度の平均値を加速度センサとジャイロセンサで計測し、算出された。(出所:東大Webサイト)

まず、ドラム演奏時の動作が、従来の上肢運動機能評価で使われる握力と相関があるかどうかを確認することで、新しい方法の妥当性が確認された。その結果、ドラム演奏中の腕の挙上角度が握力と相関を示し、上肢運動機能を測定するための有効な評価方法であることが明らかになったという。

続いて、ドラムの動作が認知機能に関係しているかどうかが調査された。その結果、ドラム演奏時の腕の挙上角度が、全般的な認知機能と関連していることが確認されたとする。さらに、ドラム演奏時の腕の挙上角度と握力の両方を用いたモデルが、認知症高齢者の認知機能障害を説明するのに優れていることも突き止められた。また、認知症重症度とドラムを叩く速さは関係がなく、認知症があってもドラムを叩けることも確かめられたとしている。

研究チームによると、今回開発された手法は、認知症や虚弱な人でも可能なドラム演奏に伴う動きであることから、効果的で実用的な手法だという。さらに、計測用の腕時計型ウェアラブルデバイスは安価かつ簡単に装着できるため、医療や介護現場でも使用が容易である点もメリットだとする。今回の手法が広く普及すれば、認知症の早期発見や重症化の抑制、治療効果の評価など、認知症治療・ケアにおいて大きな貢献が期待できるとしている。

なお、研究チームが以前に開発したドラム・コミュニケーション・プログラムは、認知症患者や虚弱者でも実施可能であり、認知機能や上肢機能、肩の挙上角度の改善効果が確認されているという。このような介入プログラムや音楽療法の最中に、今回の手法を用いて機能評価を行うことも可能とする。さらにグループセッションで実施できるため、高齢者の社会的孤立感や認知症に伴う不安感の軽減にもつながる可能性もあるとした。