他社も注目する極超音速機の需要

タロンAのような極超音速機は、潜在的には、極超音速で飛ぶ旅客機やスペースプレーンの研究や開発にも役立つ可能性がある。ストラトローンチは宇宙事業への野心も捨ててはおらず、「タロン+」という小型スペースシャトルや、スペースプレーンの構想も明らかにしている。現時点で具体的な飛行時期などは明らかにされておらず、またそもそも実際の計画としても動いてはいないようだが、タロンAの運用が順調に進めば、アレン氏の夢だった宇宙事業も復活するかもしれない。

一方、極超音速兵器の開発や試験という需要をめぐっては、小型衛星の打ち上げビジネスで勢いに乗っている米ベンチャーの「ロケット・ラボ(Rocket Lab)」も名乗りを上げている。

同社は「エレクトロン」というロケットを使い、数kgから100kg前後の小型・超小型衛星を多数打ち上げているが、今年4月に、そのエレクトロンを改造した「ヘイスト(HASTE)」というロケットを発表している。

ヘイストはエレクトロンとよく似ているものの、第3段部分を改造し、極超音速機の展開に適したロケット段にするほか、より大きな衛星フェアリングをもち、最大700kgのペイロードを搭載できるという。

ロケットは打ち上げ後、高度80km以上、秒速3kmから7.5kmの範囲で極超音速機を分離することができるという。これにより、極超音速で飛行する飛翔体の試験の需要、またサブオービタル飛行への需要に応えられるとしている。

最初の打ち上げは2023年前半に行われる予定で、顧客は明らかにされていない。

こうした動きからも見えてくるように、極超音速機の需要は、宇宙業界にとってそれなりの市場となるかもしれない。

とくに、エレクトロンのような小型・超小型衛星打ち上げ用ロケット、いわゆる超小型ロケットの市場規模は、当初の想定よりも伸びていない。小型衛星の事業者の多くは、安価さを重視し、大型ロケットによるライドシェア(数十機のまとめ打ち上げ)での打ち上げを希望するケースが多い。少ない超小型ロケットの需要も、エレクトロンがほぼシェアを独占している。

そのため、エレクトロンのライバルになるはずだった他の超小型ロケットは運用を中止したり、ヴァージン・オービットのように破産したりといった憂き目にあっている。

さらに、エレクトロンを擁するロケット・ラボでさえ、エレクトロンより大きな中型ロケット「ニュートロン」の開発を進めるなど、超小型ロケットをめぐる状況は芳しくない。

その一方で、極超音速機は、その規模からエレクトロンのような小型のロケットによる打ち上げ試験に適している。そもそも、大陸間弾道ミサイル(ICBM)自体が超小型ロケットに近い性能をもっている。目的が異なるだけで、使っている技術などはほとんど同じであり、それゆえにICBM転用の宇宙ロケットも存在するくらいである。

また、ICBMはミサイルとして確実に使えることを保証する必要があることから高価であり、また兵器として運用されていることもあって、極超音速兵器の試験に利用することはハードルが高い。退役したICBMを活用しようにも、改造の手間がかかり、数も限られている。こうしたなかで、極超音速兵器の試験を手軽に、低コストに、また頻繁に実施するために、民間の超小型ロケットを活用するという方向性は理にかなっている。

にわかに降って湧いた、極超音速機の試験という需要は、米国の超小型ロケットの市場を、そしてストラトローンチを救う福音となるのだろうか。

  • 飛行するロックとタロンA

    飛行するロックとタロンA (C) Stratolaunch

参考文献

Stratolaunch Successfully Completes Separation Test of Talon-A Vehicle
Stratolaunch | Meet Talon-A
Stratolaunch | Ready to Roc
Rocket Lab Introduces Suborbital Testbed Rocket, Selected for Hypersonic Test Flights | Rocket Lab