ソユーズ宇宙船帰還時のトラブル - あわや火災?
―NASA時代のことを聞かせてください。まず、仕事を早くこなす秘訣は?
ペギー:第一に、私は仕事を愛しています。朝、その日にこなす仕事のタイムライン(予定表)が出ると、挑戦することが面白い。いかにやり抜くかに楽しさを感じます。
―なるほど、あなたは仕事を愛し、宇宙が大好きなことがよくわかりました。一方で、恐れのような感情はないのですか?
ペギー:恐れの感情については、訓練の中で向き合い、処理の仕方を学びます。訓練を通して手順や役割を何度もイメージするので、恐れはありません。どちらかと言えば、自分が何かミスを犯さないかが怖い。
―あなたの2度目のISS宇宙滞在の帰還時(2008年4月)、ソユーズ宇宙船の分離がうまくいかずに弾道飛行で帰還し、大きな重力加速度(G)がかかりました(同乗していた韓国人飛行士は打撲で腰を痛めたと報道されている)。このときの状況を教えてもらえますか?
ペギー:わかりました。ソユーズ宇宙船については、私たちの前のミッションでも帰還時にうまくISSから離脱できず、理由も不明でした。私たちのミッションで同じことが起こることを想定し、事前の対策として弾道飛行に備えて重力加速度に耐える訓練を何度も行いました。だからGに関しては大丈夫でした。
―前の飛行でも宇宙船帰還時にトラブルが起きたのですね?
ペギー:はい。私たちの飛行では、ソユーズ宇宙船が大気圏に再突入するときに、(分離用の)5つあるボルトのうち1つが外れなかったことで空力的に不安定になり、(私たちは)ハーネスやシートにガンガン当たって、正常でないことが起こっているのを感じました。手順書にもこんな事象時の手順は何も書かれていなかったんです。最終的にボルトは外れたし、弾道飛行でGがかかった際にやるべきことがわかっていましたが、今度は火災を思わせる黒い煙が船内に立ちこめました。
―火災が!? 火災は宇宙での3大緊急事態の1つですよね。
ペギー:火災が起こることは珍しいです。煙が出たときは電気系統をすべてシャットダウンするしかないので、そうしました。実は大気圏に突入する際に宇宙船の外壁が熱せられて出た煙が、船内と外気の間にある弁を開けたときに船内に入ってきたものであり、火災ではなかったのですが。
―そのときはどんな感情でしたか? 恐怖や焦りを感じましたか?
ペギー:怖いというよりも、やるべきことをやる。煙が出たら電気系統をシャットダウンする。すると煙は治まったので、怖いとは感じませんでした。
―怖いと感じているようでは宇宙飛行士としては失格なのでしょうね。ジョンさん、宇宙飛行は危険と隣り合わせですが、宇宙に行きたい気持ちに変わりはありませんか?
ジョン:ペギーの話を聞いて、大変なことも含めて経験したくなりました(笑)。
―さすが、カーレーサーですね。ジョンさんはなぜ宇宙に行きたいんですか?
ジョン:私は8歳のころから宇宙に行くことをずっと夢見ていました。Young Astronaut Club(宇宙少年クラブ)を8歳の時に作って、ジェミニ計画やアポロ計画をチェックし、活動していました。成長するにつれて宇宙飛行士ではない道を進みましたが、間に合わなくなる前に宇宙飛行の道にたどり着くことができました。
―宇宙で何をしたいと考えていますか?
ジョン:個人的な目的としては理科教育を推進したい。自分が若かったころに星に魅せられ宇宙飛行士に憧れたように、学生たちに「宇宙開発は新たな時代を迎えていて、あなたたちも参加できるんだよ」と伝えたい。1960年代、宇宙はまだ大きな国家的事業で、(米ソの)宇宙開発レースが始まったばかりだったからね。私が10歳のころは宇宙が本当に好きだったのに、通っていた学校には科学や技術を教えるツールが整っていなかった。宇宙は手の届くところにあると伝えたいし、教育者に対しての啓蒙も含めて教育の発展に貢献したい。