今回の研究では、現代の最新理論に基づく天文学的外力が考慮されており、10万年周期の氷期・間氷期サイクルの再現に成功した実績のある氷床-気候モデル「IcIES-MIROC」が用いられた。シミュレーションの結果、約160~120万年前に見られる4万年周期の氷期・間氷期サイクルの地質記録データをよく再現できたという。
また、計算結果を詳しく分析することで、以下の事柄が示唆されたともする。
- 氷期・間氷期サイクルの周期が、4万年になるか10万年になるかは天文学的要因のわずかな違い、つまり地球の自転軸の傾きと公転軌道の楕円の程度の変動幅の違いが決める可能性がある
- 氷期から間氷期へ移り変わるタイミングは、気候歳差(公転軌道上の夏至の位置)の影響で決まる
- 自転軸の傾きと気候歳差の変化のタイミングの前後関係により、間氷期の継続期間が決まる
今回の結果について研究チームは、海底堆積物コアに含まれる底生有孔虫の殻の酸素同位体比に記録された約160~120万年前の氷床量変動をよく再現したと説明するほか、4万年周期の気候変動の幅は、大気中のCO2濃度にほぼ依存していなかったことから、現代の10万年周期の氷期・間氷期サイクルと比べ、更新世前期には大気中のCO2が果たす役割がずっと小さかったことを意味するとしている。また、当時の氷期における氷床の分布範囲に関して、自転軸の傾きと気候歳差の変化のタイミングや公転軌道の楕円の度合いの条件が重なると、北米にある氷床がわずか1万年ほどで現在のカナダの大部分を覆うほどの面積に達することも明らかになったとする。
研究チームでは、今回の重要な結果の1つとして、公転軌道の離心率の変化幅、または自転軸の傾きの変化幅が小さくなると、現代のような10万年周期の氷期・間氷期サイクルが出現しやすくなるという点を挙げており、シミュレーション結果の氷床量変動と気候歳差および自転軸の傾きの変化のタイミングについての解析を行うことで、更新世前期では気候歳差による日射の極大を迎えるタイミングで急速に氷床が後退を開始することが確認されたとしている。
また、自転軸の傾きと気候歳差によって、どちらが先に日射の極大を迎えるかが氷期と間氷期の長さを決める要因であることも判明したという。自転軸の傾きが気候歳差より先に日射の極大をもたらす場合には、間氷期が短く、氷期が長くなるのに対して自転軸の傾きが気候歳差に遅れて日射の極大をもたらす場合には間氷期が長く、氷期が短くなる。この結果、更新世初期の4万年周期の氷期・間氷期サイクルは、自転軸の傾きと気候歳差の変化のタイミングの前後関係により、間氷期が長い場合、中間的な長さの場合、短い場合、の3種類に分類できることが示されたという。
なお、研究チームでは、将来、この方向の研究が進むことで、地球の気候に関する天文学的外力の役割や氷床と気候変動の仕組みについての理解が進み、地球の歴史や未来の変化をよりよく把握できることが期待されるとしている。