一素子あたりのTESカロリメータのサイズはサブmmほどだが、多数を並べてアレイ化をすることで受光面を広げつつ、反応する57Feの質量を増やすことができ、効率的なアクシオン観測が実現するとのことで、1万素子アレイを用いた100日間の観測で、これまでに無い検出感度を達成できるという。
粒子を吸収したことで発生した熱をTESカロリメータに伝え、その温度上昇を測ることで粒子1つ1つのエネルギーを検出することが可能。熱を検知する温度計センサとなる同検出器は超伝導薄膜でできており、吸収体となる鉄の磁性の影響により分光性能が劣化しないよう、同検出器と鉄吸収体を離して横置きにする構造が採用されている。鉄吸収体で発生した熱は金で成膜されたストラップを通って同検出器へと伝搬される仕組み。熱を検出するという検出原理により、現在主流となっている電荷などの電気信号を検出するタイプの検出器(シリコンPIN検出器など)に比べて、検出効率が向上することが期待されるという。
発生した熱を損失無く伝搬させるために熱ストラップに要求されるのが、高い熱伝導性であるため、研究チームでは、高い熱伝導性を持つ膜の成膜が可能と報告されている電解析出法を用いて、成膜条件を変えながら適切な条件を模索することにしたとする。その結果、これまでの真空蒸着法によって成膜されていた金ストラップに比べ、8倍以上高い熱伝導性を持つ膜の成膜に成功したとする。
また同様に鉄吸収体も高い熱伝導性が求められるため、電解析出法により成膜を実施。合金ではなく純粋な鉄の成膜は先行研究がほとんど無く、今回は、鉄の安定同位体として大半を占める「56Fe」を用いて適切な条件の洗い出しが実施され、結果として十分な膜厚を持つ鉄吸収体の成膜に成功し、鉄吸収体付きの64素子のTESカロリメータの構造形成に成功したという。なお、今後は、このような成膜条件で製作した素子の分光性能の評価を行う必要があると研究チームでは説明している。