宇宙航空研究開発機構(JAXA)は5月11日、暗黒物質になり得る有力候補の未発見の素粒子「アクシオン」のうち、太陽から飛来するものを地上で検出するため、サブmm(数百μm)サイズの次世代熱検出器「超伝導転移端型X線マイクロカロリメータ」(TESカロリメータ)の性能向上を目指し、粒子の入射により吸収体で発生した熱を「超伝導薄膜製温度計センサ」へ伝達するための、熱損失の無い伝導性の高い「金の熱ストラップ」を成膜することに成功したと発表した。
同成果は、JAXA 宇宙科学研究所(ISAS)宇宙物理学研究系の八木雄大大学院生、同・田中圭太大学院生、同・宮川陸大大学院生、同・太田瞭大学院生、同・山崎典子教授、同・満田和久名誉教授らの研究チームによるもの。詳細は、超伝導とそのほかの関連技術に関する全般を扱う学術誌「IEEE Transactions on Applied Superconductivity」に掲載された。
現在、ダークマター候補の素粒子はいくつかあり、アクシオンは理論上で存在が予言されている段階ではあるものの、その有力候補の1つとされている(ダークマターが1種類の素粒子とは限らず、アクシオンはそのうちの1つという可能性もある)。
アクシオンの生成源の1つとして考えられているのが太陽で、もし同素粒子が実在した場合、太陽内部の「黒体放射光子」が中心核に存在する鉄の安定同位体の1つである「57Fe」と反応することで生成されると考えられている。黒体放射光子とは、全波長の電磁波を完全吸収する理想上の物体「黒体」から熱放射(黒体放射)された電磁波のことであり、およそ1600万度というX線も放射するほど高温の太陽中心核の輝き方は黒体放射に近いことから、黒体放射源とみなされている。
今回の研究は、太陽から飛来するアクシオンを地球上で57Feと再反応させ、14.4keV相当の熱に変換されたものをTESカロリメータを用いて検出することで、間接的にアクシオンの存在を明らかにするというものだという。この検出方法では同素粒子の質量に依存せず、原子核の遷移に伴う決まったエネルギーを探査すればよく、同素粒子の質量領域を走査する必要が無いという利点があると研究チームでは説明する。
TESカロリメータは14.4keVを含むX線帯域(数百eV~数十keV)の放射線に対して高い感度を持ち、熱雑音の小さい100mK(およそ-273.05℃)程度の極低温で動作させることで高い分光性能を発揮する。同検出器は、現在主流の半導体物質を用いた検出器に取って代わり、JAXAが参画している2030年代の打上げ予定の大型X線天文衛星「Athena」にも搭載される予定である。