希ガスのネオン(Ne)原子を標的とし、0.1気圧の希薄な条件で、従来の半導体検出器よりも10倍以上高いエネルギー分解能を実現し(半値幅5.2eV)、「μ粒子Ne原子」(以下「μNe原子」)が放出するμ特性X線の測定が行われた。その結果、μ特性X線のエネルギーが0.002%という極めて高い精度で決定された。

  • μNe原子から放出されるミュオン特性X線のスペクトル。(a)Neガス標的圧力0.1気圧において、6300eV付近に現れるμNe原子から放出されるミュオン特性X線が測定された。このピークは、6種類の遷移の寄与の重ね合わせにより形成される。各々の寄与を考慮したフィッティングが行われ、ピークエネルギーが0.002%の精度で決定された。(b)フィッティングによる残差(予測値と実測値の差)が表されている。残差が十分に小さいことから、高い精度でフィッティングできたことが見て取れる。

    μNe原子から放出されるミュオン特性X線のスペクトル。(a)Neガス標的圧力0.1気圧において、6300eV付近に現れるμNe原子から放出されるミュオン特性X線が測定された。このピークは、6種類の遷移の寄与の重ね合わせにより形成される。各々の寄与を考慮したフィッティングが行われ、ピークエネルギーが0.002%の精度で決定された。(b)フィッティングによる残差(予測値と実測値の差)が表されている。残差が十分に小さいことから、高い精度でフィッティングできたことが見て取れる。(出所:KEKプレスリリースPDF)

さらに、Neガス標的の圧力を変えながら同様の測定を繰り返したところ、μ特性X線のエネルギーは、Neガス標的の圧力によらず実験誤差の範囲内で一定であることが判明。このことから、今回実験で用いられたμNe原子は、孤立した環境にあったことが結論できるとされた。

最新の理論計算結果と実験結果が比較され、実験誤差の範囲内で両者が一致することも確認された。特に今回は、強電場下における真空分極の効果を5.8%という極めて高い精度で検証することに成功したという。これは、現在までに最も高精度で観測されたウラン多価イオン(U91+)を用いた強電場QEDの検証精度に匹敵するとした。

  • ミュオン特性X線エネルギーのNeガス圧力依存性と最新理論計算との比較。Neガス標的の圧力に対してミュオン特性X線のエネルギーがプロットされている。実験誤差の範囲で圧力によるエネルギー変化は存在せず、μNe原子は孤立環境下にあったことがわかる。また、精密測定により決定されたミュオン特性X線のエネルギーは、最新理論計算の結果と見事に一致している。

    ミュオン特性X線エネルギーのNeガス圧力依存性と最新理論計算との比較。Neガス標的の圧力に対してミュオン特性X線のエネルギーがプロットされている。実験誤差の範囲で圧力によるエネルギー変化は存在せず、μNe原子は孤立環境下にあったことがわかる。また、精密測定により決定されたミュオン特性X線のエネルギーは、最新理論計算の結果と見事に一致している。(出所:KEKプレスリリースPDF)

なお、しきい値の「シュウィンガー極限」を超えた超強電場の世界では、未知の高次QED効果が顕著になることが予想されているが、まだ確認できてはいない。多価イオンではウラン(92U)でも同極限を上回れないが、μ原子ならアルゴン(18Ar)でも上回れるという。今回、μ原子を用いた実験手法が実証されたことで、強電場下のQED検証の研究が大きく進展することが期待されるとしている。

また近年、μ原子は非破壊元素分析ツールとしても注目されているという。今回の研究で確立されたμ特性X線エネルギーの精密計測定法を元素分析法に応用することで、これまで困難だった同位体分析に加え、元素の化学状態分析など、新たな研究分野の開拓につながることも期待されるとした。