次に、新触媒によるNH3合成の作用機構を解明するため、速度論解析やDFT計算などを行ったところ、仕事関数が非常に低いBaAl2O4-xHy:e-zの表面からCoへの電子供与が起こり、Co上での窒素解離が大幅に促進されていることが明らかとなった。

また、新触媒を用いて窒素と重水素(D2)からNH3合成を行うと、重NH3(ND3)よりもNH3が優先して生成されることが確認されたという。これは、Co表面で気相の水素解離により生成した水素種よりも、新触媒中のH-が優先的にNH3生成に使われることが示されているとした。このように、新触媒から電子が供与されるだけでなく、その格子に含まれるH-によってもNH3の生成が促進されていることが示唆された。

また、BaAl2O4-xHy:e-zは三次元的に連結したAlO4四面体骨格を持ち、H-と電子が保護されているため、大気にさらされた後もその構造は維持されることもわかった。つまり、大気への暴露で触媒活性が大きく低下してしまう課題もクリアされたのである。

また新触媒について、NH3合成活性試験の後、大気暴露後の活性を再評価すると、表面へのCO2吸着などの影響で活性は低下するものの、600℃での水素還元処理により本来の活性に回復したという。再生処理後の新触媒は、元の触媒とほぼ同量のH-を有しており、この触媒が大気中での高い安定性を持つことが明らかにされた。

  • (a)大気暴露前後での試料のX線回折。(b)「BaAl2O4-xHy:e-z触媒の大気暴露前後の触媒活性(反応温度:400℃、圧力:9気圧)。

    (a)大気暴露前後での試料のX線回折。(b)「BaAl2O4-xHy:e-z触媒の大気暴露前後の触媒活性(反応温度:400℃、圧力:9気圧)。(出所:東工大プレスリリースPDF)

研究チームによると、今回の新触媒は、触媒の作動原理などをより詳細に解明できれば、さらなる性能向上を期待でき、そのほかの新たな触媒材料の創出にもつながると期待されるという。研究チームは、そのための新しい触媒設計指針を立てていくことなどが、今後グリーンアンモニア合成のような新たなプロセスを社会実装するために向けた鍵となると考えているとしている。