今回の観測は、2018年4月に実施された。世界中の16か所となると、同時にすべて晴天というのは難しいが、今回は非常に運が良く、大半が観測できたという。また今回は、GMVAにチリのアルマ望遠鏡とグリーンランド望遠鏡が新たに参加したことで電波望遠鏡の空白地帯が大きく埋まり、南北方向の解像度が従来と比べて4倍以上に向上したという。これにより、これまではブラックホールとそこから遠く離れたジェットが、それぞれ別々の画像だったが、3.5mmの波長帯を用いることでブラックホールを取り巻く詳細な構造とジェットを1枚のパノラマ画像の中に同時に収めることが実現したのである。
波長3.5mmで測定されたリング構造の視直径は約64マイクロ秒角≒0.017光年(約1075天文単位)で、波長1.3mmのEHTで撮影されたリングの視直径よりも1.5倍ほど大きく、また厚みもEHTのリングよりも厚いことが確認された。
大きく厚いリング構造の起源を明らかにするために、研究チームはコンピュータシミュレーションを用いてさまざまなシナリオを検証することにしたという。その結果、今回の3.5mmで撮影された大きなリングは、EHTで撮影された光子リングの周りに広がる降着円盤であることが結論づけられたとする。
また今回の研究のもう1つの重要な進展は、M87の中心部から噴出するジェットがこれまでで最も高い視力で撮影され、中心のリング状構造につながる様子が捉えられたことだという。このジェットは3本の構造が確認されており、その点も重要な成果とした。
なお、今回のGMVAのうちの16台には、残念ながらNAOJのVERAネットワークを構成する4つの電波望遠鏡(水沢局(岩手)、小笠原局、入来局(鹿児島)、石垣島局)は、1台も参加していなかったとする。世界的に、観測可能な電波望遠鏡が多いことからGMVAでは波長3.5mm帯が選択されているが、上述の4つの電波望遠鏡で観測できない波長だという。
そのため、現在は水沢局に新たに3.5mm帯受信機を取り付け(大阪公大と共同開発)、搭載試験を進めており、2024年度から日本の電波望遠鏡もGMVAに参加するとしている(水沢局はこれまで、波長7mm帯よりも長い波長で定常観測を実施してきた)。
ちなみに今回の研究では、上述したように日本の電波望遠鏡は参加できなかったが、長いブラックホール研究の歴史を持つ日本人研究者が10名以上参加し、重責を担ったという。冒頭で述べたように、責任者4名のうちの2名が日本人研究者で、ほかにも研究統括および観測立案、アルマ望遠鏡の運用およびALMA Phase-up Project(アルマ望遠鏡をVLBIの1局にするための装置開発)への貢献、グリーンランド望遠鏡の建設および運用、観測データのキャリブレーションおよびスパースモデリングなどを用いた画像化、観測結果の理論的考察(最終的に出版された論文には含まれていないが、研究の議論の過程では国立天文台の天文学専用スパコン「アテルイII」も利用された)などで日本人研究者が活躍した。
今後は、水沢局など、GMVAへ参加する電波望遠鏡の台数を増やし、ブラックホール・降着円盤・ジェットという三種の神器の動画撮影に挑戦するとしている。1週間ごとに1枚撮影し、長期間にわたって何枚もデータを取得することで、降着円盤やジェットの動きを動画で再生できるようにするとしている。