国立天文台(NAOJ)、八戸工業高等門学校(八戸高専)、総合研究大学院大学、東京大学(東大)、新潟大学、工学院大学、大阪公立大学(大阪公大)の7者は4月27日、波長3.5mm帯で観測する地球規模の国際電波望遠鏡ネットワーク「グローバルミリ波VLBI観測網(GMVA)」を用いて、おとめ座の方向に地球から約5500万光年の距離にある大型楕円銀河「M87」の中心部を詳しく観測した結果、大質量ブラックホールの周囲に広がる降着円盤の撮影に史上初めて成功すると同時に、ブラックホールから噴き出すジェットの根元の構造をこれまでで最も高い視力で捉えたことを共同で発表。同日にはNAOJが記者会見を実施した。
同成果は、16の国と地域、65の研究機関に属する100名超の研究者が参加した国際共同研究チーム(GMVA)によるもの。会見には、今回の研究責任者4人のうちの1人であるNAOJ 水沢VLBI観測所の秦和弘助教に加え、データ解析と画像化を担当した東京エレクトロン テクノロジーソリューションズの田崎文得シニアスペシャリスト、観測提案および理論・シミュレーションとの比較を担当した八戸高専の中村雅徳教授、理論・シミュレーションとの比較を担当した東大 宇宙線研究所の川島朋尚特任研究員が出席した。また研究の詳細は、英科学誌「Nature」に掲載された。
今回観測が行われたM87銀河は、おとめ座銀河団並びにおとめ座超銀河団(天の川銀河を含む局所銀河群も所属)の中心に位置する大型銀河だ。その中心には非常に明るく輝く活動銀河核があり、そのエンジンである"超"大質量ブラックホールは、太陽質量の約65億倍もある。
そしてこの超大質量ブラックホールは、2019年に、世界中の電波望遠鏡6か所8台をネットワークさせたイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)によって、史上初の「ブラックホールシャドウ」として発表されたことで知られている。これはブラックホールの視覚的証拠を初めて示すとともに、銀河の中心には巨大なブラックホールが存在することを決定的にするものだった。
しかしながら、EHTの観測はブラックホール本体がターゲットだったため、観測波長1.3mm(230GHz)を用いて視力(約300万)を最優先したことから、感度と視野の制約があった。そのため、ブラックホールシャドウ(より正確には「光子リング」)と呼ばれる領域しか視野の範囲内に収まらなかったという。
光子リングは、ブラックホールに最も近いところで、重力によって光の軌道が捻じ曲げられた領域だ。EHTによって観測されたその直径は、約0.011光年(約700天文単位)だった。M87の中心部は活動銀河核であるために非常に明るく、その莫大なエネルギーを生成するため、ブラックホールの周囲には、強大な重力によって集積された物質やガスなどが超高速で旋回する「降着円盤」が広がっていると予言されていた。しかし、これまでのところ、M87以外の銀河も含めて、降着円盤が観測されたことはなかった。
その一方で、降着円盤よりもさらに大きな構造(光年単位)である、M87銀河の中心部から噴き出すジェットは、これまで日本を含む東アジアVLBI(観測波長7mm・視力15万)などによって観測が行われていた。つまり、ブラックホール近傍とジェットの間をつなぐ降着円盤の領域を撮影することは、ブラックホールの研究において非常に重要だったのである。会見に参加した秦助教が「活動銀河核の三種の神器」と例えた大質量ブラックホール・降着円盤・ジェットのつながりを明らかにすることが、天文学者たちの大きな宿題として残されていたとする。
波長3.5mm帯で観測するGMVAは、波長1.3mm帯で観測するEHTと相補的な役割を担う国際VLBI(超長基線電波干渉法)ネットワークだ。EHTの8台に対し、GMVAは16台の電波望遠鏡が参加しており、視力こそEHTの半分程度の約150万ではあるが、より高い感度と広い視野を備えており、降着円盤を視野に収めることが可能だ。
今回の観測に参加した電波望遠鏡の内訳は、米国の超長基線アレイ(VLBA)のアンテナ8局に加え、同じく米国のグリーンバンク100m望遠鏡、ドイツのEffelsberg 100m望遠鏡、スペインのIRAM30m望遠鏡、同・イエベス40m望遠鏡、スウェーデンのオンサラ20m望遠鏡、フィンランドのメツァホヴィ望遠鏡、チリのアルマ望遠鏡、そしてグリーンランド望遠鏡となっている。