海洋研究開発機構(JAMSTEC)、国立極地研究所、高輝度光科学研究センター、神奈川大学、分子科学研究所、大阪大学、名古屋大学、広島大学、千葉工業大学、京都大学、大阪公立大学の11者は4月21日、探査機「はやぶさ2」が地球に持ち帰った小惑星リュウグウ粒子を詳細に調べ、これらの粒子が経験した、約2万気圧程度という穏やかな天体衝突の痕跡を発見したことを共同で発表した。
同成果は、JAMSTEC 超先鋭研究開発部門 高知コア研究所の富岡尚敬主任研究員を中心とする、国内外の40人の研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。
天体衝突は、天体の破壊や合体に関わる重要かつ基礎的なプロセスだ。リュウグウも、自身の直径は1kmほどだが、それより大きな母天体が天体衝突によって壊された際の破片からできたと考えられている。またリュウグウ自身も、多数の天体衝突を経験したことがわかっている。衝突の痕跡を探るための最も有効な手段の1つは、小惑星の物質を直接調べることだという。そこで今回の研究では、4つの粒子の詳細な解析を行ったとする。
リュウグウの粒子は、大部分が粘土鉱物(層状構造を持つ含水鉱物)からなる。今回の解析の結果、4つの粒子とも、粘土鉱物の一種である蛇紋石やサポナイトの混合層が多く観察された。これらの鉱物において、強い衝撃加熱によって分解・発泡した組織は一切見られなかったとする。そしてこの観察結果と、過去に行われた隕石中の粘土鉱物の加熱実験の結果に基づき、この粒子は形成された後に、一度も500℃以上まで加熱されていないことが確認された。
走査電子顕微鏡(SEM)による観察では、断層が観察された。リュウグウ粒子は、酸化鉄(マグネタイト)の微粒子でできた木イチゴ状の球状集合体(フランボイド)が多く含まれるが、この集合体が直線状の断層(3次元では面)に沿って50μm近くまで大きく引き伸ばされたり、ずれたりしていたという。
今回の研究では、この断層構造の解析に、地球の断層に用いられている力学計算手法が応用された。その結果、衝撃波によりリュウグウ粒子に与えられた圧力は約2万気圧であることが判明。このような高圧力は、直径1kmほどの小天体であるリュウグウの内部では生じ得ないことから、この断層はリュウグウよりさらに小さな天体が高速度で衝突した際に形成されたと結論づけたとする。