そして2020年2月24日、米国の重力波望遠鏡「LIGO」と、イタリアとフランスを中心とした重力波望遠鏡「Virgo」は、ブラックホール連星合体からの重力波事象「GW200224_222234」(以下「GW200224」)を検出。一般に、重力波望遠鏡の「視力」は、人間の視力に換算すると約0.0008と非常に悪く、同重力波の到来方向は典型的には「満月2000個分(500平方度)の範囲のどこか」というレベルだ。
しかし、GW200224は重力波が強く、その到来方向が約50平方度に限定されていた。そこで研究チームは、すばる望遠鏡とカナリア大望遠鏡を連係させた追観測を実行することにしたという。
重力波の検出からわずか12時間後、HSCを用いた撮像観測が行われ、急激な光度変化を起こした突発天体がその方向にあるか探査が行われた。この観測は到来方向の91%をカバーし、ブラックホール連星合体による重力波事象に対し、その到来方向の大部分をカバーする観測としては、これまでで最も深い観測となった。
そして発見された突発天体の光度変動を精査し、カナリア大望遠鏡の分光器「OSIRIS」により、突発天体が属する銀河の分光観測を実施。その銀河までの距離を決定し、最終的にGW200224に対応する可能性のある天体が19天体同定された。ただし、この中でGW200224との関連が強く示唆される天体はなかったという。
対応天体がないとすると、2019年のブラックホール連星合体(GW190521)で報告されたものと同様の電磁波放射現象は、GW200224には付随していなかったことになる。このことから研究チームは、ブラックホール連星合体からの電磁波放射現象には、多様性があることが示されているとしている。
2023年5月からは、LIGO(2台)、Virgoに日本の重力波望遠鏡「KAGRA」を加えた計4台での観測が再開される予定で、性能が向上したこれらの重力波望遠鏡が連係することにより、さらに多くの重力波事象がより詳細に検出されることが期待されている。そして、多様な重力波天体の素性を明らかにするため、研究チームは今後も、すばる望遠鏡とカナリア大望遠鏡を連係させた電磁波の追観測を行っていくとした。