そこで今回は、Gain-Loss結合のセンサ側に2極式バイオセンサを並列接続することで、共振回路の振幅変調が実現された。さらに研究チームが開発した繊維型酵素センサを新回路に組み込むことで、無線で2000Ω/0.1mMという高感度での計測が達成された。その結果、0.05mM単位の糖度を見分けることが可能となったという。涙中糖度は健常者が0.05mM~0.2mMで、糖尿病患者が0.15mM~0.5mMと差があるため、この計測が糖尿病患者の健康管理に利用できるとする。さらに、国内では失明原因第2位、世界では失明原因第1位の糖尿病網膜症の無線計測が実現できることも実証されたとのことだ。

  • 従来法と新手法による糖度の無線計測

    従来法と新手法による糖度の無線計測(出所:早大プレスリリースPDF)

また、並列接続共振回路におけるPT対称性についての理論的な成立も証明されたのに加え、実験的に結合系Q値の高感度化、および微弱な生体信号の無線計測にも成功したとする。

  • 従来回路および新回路による計測システム

    従来回路および新回路による計測システム(出所:早大プレスリリースPDF)

研究チームによると、今回のシステムは、センサ側の抵抗値と極性の異なる負性抵抗を検出器に設置するのみで済むため、既存のセンサをそのまま利用することが可能だという。また、センサ側の電源設置が不要なため、使い捨てレンズなどの消耗品センサの単価を抑えることができる上、ペット産業にも応用可能だという。

それらに加え、今回の無線計測の仕組みは、体表計測に加え、体内への応用にも技術的優位性を示すとしている。一般的に、体内埋め込みデバイスへの無線給電および無線計測を実現する際、皮膚において交流電場のエネルギー吸収が生じるため、給電効率および計測感度が著しく低下してしまうことが課題だ。実際、市販のヒト皮膚を用いてエネルギー損失を確認したところ、皮膚によって計測インピーダンスが1/4低下し、さらに、無線計測(血中乳酸濃度)の感度が低下することが確認されたとする。

  • 皮膚を介した無線計測への応用

    皮膚を介した無線計測への応用(出所:早大プレスリリースPDF)

一方、PT対称性の仕組みを利用すると、皮膚抵抗を加味した負性抵抗を調整できるため、高いセンサ感度を維持したまま無線計測が可能になるとしている。

なお今回の研究では、敗血症(乳酸アシドーシス)のバイオマーカーで知られる血中乳酸も測定対象とされ、敗血症が疑われる患者の乳酸濃度(0mM~4.0mM)を無線で測れることも確認された。つまり、従来技術と比較して高感度・高利得などの技術的優位性を持ち、かつ体表および体内埋め込みなどを目的とする無線計測システムとして、幅広く利用できるという。

研究チームは今後の事業化に向け、今回の計測レンズを用いて医学部眼科の研究者と共同で臨床試験に取り組むと同時に、企業との共同研究も検討しているとする。