ミクロの世界では、粒子の位置もエネルギーも検出するまではわからないが、量子力学を用いれば、エネルギーの確率分布や期待値などを予測することは可能だ。今回の研究では、この量子力学における粒子のエネルギーの期待値と、粒子の位置の期待値の取り得る範囲の関係の導出方法が確立された。
たとえば、容器の中の粒子の位置の期待値の取り得る範囲を調べると、ニュートン力学の予言する位置の取り得る範囲よりも狭いことが明らかになったという(量子力学における粒子のエネルギーの期待値を、ニュートン力学におけるエネルギーと一致させて比較がなされている)。この範囲はニュートン力学と同様に、エネルギーの期待値を増加させると広がる。
また、エネルギーの期待値が十分大きい場合、量子力学における位置の期待値の取り得る範囲は、ニュートン力学における位置の取り得る範囲と、近似的に等しくなることが示されたとする。エネルギーが高くなると位置の期待値の取り得る範囲が広がるので、この結果はマクロな世界では、量子力学の結果がニュートン力学と一致することを意味するという。これにより、(マクロな世界で成立する)ニュートン力学におけるエネルギーと位置の関係を、量子論のレベルから説明することに成功したとする。
今回の研究では、位置の期待値の範囲を導出する際に、不確定性関係という、量子力学において恒等的に成立する関係式が用いられた。そのため、今回の研究で導かれた結果も、恒等的に成立する非常に強力な結果だという。また今回の研究の解析方法は、粒子の位置以外の物理量(たとえば粒子の速度)に関しても応用が可能で、それらの物理量の期待値の取り得る範囲も求めることが可能とのことだ。
なお今回は、「靴紐法」と呼ばれる計算手法が応用されたとする。靴紐法は、2020年に海外の研究者によって、量子系のエネルギー準位を導出する計算手法として提唱されたものだ。今回の研究では、靴紐法が不確定性関係の一種であることを指摘したといい、これにより量子系のエネルギー準位が不確定性関係から導出できることが明らかになったとしている。
これまでエネルギー準位を導出するためには、微分方程式の「シュレディンガー方程式」を解析する必要があると考えられていた。しかし今回、不確定性関係からもエネルギー準位を導出できることが解明されたことは、これまでの量子力学の概念を覆すものとする。
森田准教授によると、今回の研究成果である「エネルギーと位置の期待値の関係の導出」と「不確定性関係とエネルギー準位の関係」は、いずれも量子力学の基礎的な性質を明らかにするものだという。そして今後は、この結果を用いた理論的応用や、実験的検証などが期待されるとしている。