アミノ酸と鉱物の存在量の比較が行われた結果、粒子「A0022」には、地球外物質に珍しいアミノ酸であるDMGが多く含まれていたのに対し、粒子「C0008」には同アミノ酸がほとんど含まれていなかったという。一方、アミノ酸の一種のグリシンの存在量は、C0008に比べてA0022は低く、A0022のグリシンに対する同じくアミノ酸の一種であるβ-アラニンの比率は、C0008のそれよりも高かったとする。この比率は、小惑星環境における水を主とする流体との反応の程度の大きさを反映すると考えられ、A0022にC0008に比べてDMGが多いことは、流体との反応の程度が高いことに関連した何らかの反応によるものではないかと考えられるとする。
続いて、リュウグウ粒子間でなぜアミノ酸濃度が異なるのか、それはどのような反応によるものなのか、追加の証拠がないか鉱物相を調べることにしたという。その結果、炭酸塩、マグネタイト、鉄硫化物などの二次鉱物(水性変質後に形成される)の存在量が、C0008よりもA0022の方が高いことが判明。特に、炭酸塩の量が多いことから、A0022はC0008に比べて、COまたはCO2がより多い領域に存在したことが示唆されたとする。また、β-アラニンとグリシンの比率は、より強い流体との反応の結果を示す証拠と考えられることから、A0022にはC0008よりも多くの氷が存在していたことが示唆されるとしている。
DMGの生産手法の1つである「Eschweiler-Clarke反応」では、グリシン、ギ酸、ホルムアルデヒドは水中で相互作用し、CO2が発生することが知られている。グリシン、ギ酸、ホルムアルデヒドはいずれも彗星に含まれており、小惑星にも含まれていることが予想される。したがって、A0022の置かれた環境でEschweiler-Clarke反応が起きたと考えれば、この粒子のDMGがC0008と比較して高く、グリシンの存在が低いことも説明できるという。またこの反応で発生したCO2が、A0022に含まれる炭酸塩の形成に寄与したとも考えられるとした。
研究チームによると、今回の研究結果は、小惑星環境における流体反応におけるわずかな条件の違いが、アミノ酸の最終的な存在量に大きな影響を与えたことを示したものだとする。あるアミノ酸は破壊され、またあるアミノ酸は生成された、というプロセスが蓄積された結果、地球生命の起源として、アミノ酸が供された可能性があるとしている。