適切な日射量、温度、湿度、二酸化炭素、潅水を制御

林氏による生育調査では、以前の温室において、日照量が減少する12~1月の茎の先端の太さが3~4ミリ程度だった。しかし「統合環境制御型グリーンハウス」では6ミリを下回ることがないという。わずか10分~15分の日照も無駄なく利用するため、成長速度が早く、品質も向上。サイズもより大きくなり、下位等級品が減ったそうだ。

  • パプリカの栽培に使う養液は2種類の液体を混ぜ合わせたもの

  • 水源である井戸水や排液をため込んだタンクが立ちならぶ

  • グリーンハウスの温調を担うボイラー室

  • 温めた水を保存するための500㎥の蓄熱タンク

「パプリカは日光も必要ですが、夜は適度に冷えてほしい作物です。しかし、夜間に温室の気温が下がり、朝に日光で暖まると下手なハウスでは、結露してしまいます。こうした問題を起こさないよう、湿度を適切に保ちつつ徐々に温度を上げるような制御が統合環境制御型グリーンハウスの機能の一例です。ハードウェアとソフトウェア、両方の性能が求められます」(Tedy 林氏)。

  • 収穫したパプリカは電気牽引車でまとめて運ばれる

  • 選別、包装、梱包が行われ、出荷を待つパプリカ

  • グリーンハウスの制御は事務所のPCからまとめて行うことが可能

目指すは農業を中心とした街作り

「統合環境制御型グリーンハウス」の工事期間は当初9カ月見込んでいたものの、3~4カ月ほど遅れて完成したという。まだまだコロナ禍が続いており、工事を止めないために現場はソーシャルディスタンスの徹底が求められた。さらに、ロシアによるウクライナ侵攻が深刻化するにつれ、建設資材の高騰や物流遅延が深刻化し、一部の部品を国産にし変えるなどの工夫で完成に至ったそうだ。

「ある程度の遅れは想定内で、栽培の時期はずらさずに済みました。NTTアグリテクノロジーさんは大変だったと思います。菊池さんはみずから現場に立ち、工事の指揮を執ってくれました。工事が佳境を迎えるころはちょうど夏真っ盛りです。水戸にいる間にみるみる肌が真っ黒になっていって、後から聞いたら8キロ痩せたと。世界情勢が混乱する中、親身に対応いただいてありがたく思っています」(Tedy 林氏)

  • 日本のパプリカ栽培において第一線に立つ林氏は、起業後に農学の博士号も取得している

農業の効率化が求められる中で、Tedyの取り組みはまさに日本の最先端を行くものと言える。NTTアグリテクノロジーの菊池氏は「ここ数年のコロナ禍やウクライナ危機により物流難が起こっていますが、こうした事態に備える意味でも、日本として国産野菜の提供を維持していかなければならないと考えています」と話す。そして、農業ICTの展望について、以下のように語る。

「農家さんの平均年齢が上がり、人数がどんどん減っていくことを踏まえると、より効率で省力化される栽培方式はさらに求められていくでしょう。それが結果的に、1人当たりの栽培面積を広げ収穫量が増えることで儲かる形になれば農業も継続でき、国策としてもインパクトがあるのではないかと思います。日本の農家さんは丁寧に農産物を作っており、私は日本のスーパーの出荷にとどめておくのは非常にもったいないないと感じています。そのノウハウや野菜への想いを海外に展開するというのも、目指していきたい領域の一つですね」(NTTアグリテクノロジー 菊池氏)

今回のような大規模施設は、前後の関連産業や雇用の創出も含め、地域の活性化に大きな影響を与える。NTTアグリテクノロジーのビジョンは農業を起点とした街作りへの貢献にこそあるという。

先進的な取り込みを行う農家や自治体に対し、設備だけではなく技術、物流、小売、働き方というバリューチェーン全体でサポートするという事業展開を目指しているそうだ。同社はこれから日本の農業にどのような影響を与えていくのか、引き続き注目したい。