2022年8月、茨城県水戸市でパプリカを栽培するTedyが「統合環境制御型グリーンハウス」を竣工した。最先端のテクノロジーを駆使した、この温室を手がけたのはNTTアグリテクノロジーだ。その特徴とICTを活用した農業の展望について伺ってみたい。

  • 統合環境制御型グリーンハウスを竣工したTedyとNTTアグリテクノロジー

ICTで農業課題の解決を

味の良さと見た目の美しさから世界で評価される高品質な日本の農作物。だが、近年は農業従事者の高齢化が著しく進んでおり、後継者不足や耕作放棄地が大きな問題になっている。このような背景を受け、いま農業には労働力不足をICTで補い、より効率的な経営を行うことが求められている。

地域の社会課題解決を目指すNTT東日本は、積極的にこの問題への取り組みを進めている。その第一線に立っているのが、2019年に設立されたNTTグループ初の農業専業会社、NTTアグリテクノロジーだ。

そんなNTTアグリテクノロジーとともにICTを活用した農業を進めている会社の一つがTedyだ。Tedyは収量最大化と環境負荷低減を両立するため、「統合環境制御型グリーンハウス」の設計・建設をNTTアグリテクノロジーに依頼。その特徴とは、どのようなものなのだろうか。

  • 農業生産法人として「施設野菜生産」に取り組む、茨城県水戸市のTedy

国産パプリカとTedyの歩み

日本に初めてパプリカが輸入されたのは1993年。当時、パプリカはまだオランダでしか栽培されておらず、日本では一部のデパートなどでしか見ることができない高価な野菜だった。国内価格は、1個あたり500~600円。これはオランダから空輸し、関税や物流を経て、商社の利益を乗せた価格だ。Tedyの代表取締役である林氏は、ここに目を付けた。

「パプリカの栽培方法を調べたところ、日本でも作れることが分かりました。見た目も良く、栄養も豊富です。これを栽培できたらビジネスになると思いました。ですが、これが一筋縄ではいかなかった」(Tedy 林 氏)

  • Tedy 代表取締役 林 俊秀氏

こうして、林氏は2000年よりパプリカの生産を開始する。しかし、そのころには韓国やニュージーランドの輸入もスタートし、価格は落ち着きを見せ始めていた。国産パプリカならではの安心・安全と鮮度を保ちつつ、より安定した生産を目指し、林氏は2006年にフランス製のフィルム温室を竣工。会社名を現在のTedyに変更し、欧州を範とした先進的な栽培をスタートした。

  • Tedyで栽培されているパプリカは非常に大きく色も濃厚だ

現在、日本で流通しているパプリカは輸入が9割、国産が1割であり、2020年に日本全体で出荷された国産パプリカは約6,520トン。そのうち500トン超が、ここTedyで生産され、関東近郊のスーパーやオンラインショップで販売されている。

生産性が高い「統合環境制御型グリーンハウス」

パプリカの生産をさらに効率化するため、2021年夏より建設を始め、2022年8月に竣工したのが、1万8,720平方メートルの面積を持つ「統合環境制御型グリーンハウス」だ。Tedyの従来の温室は、1平米あたり12~13キロのパプリカを栽培していた。しかし、オランダの最新設備では栽培の密度をより高めることができ、1平米あたりおよそ25キロの収穫量を見込める。この差が生まれる理由が、統合環境制御にあった。

「茨城の環境を最大限に生かし、より理想的な環境で育て、生産量を最大化しなければならないと思いました。最新の温室設備ならば、日本でパプリカを土耕栽培するより4倍の生産が見込めます。日光を最大限有効利用することで成長を促進できるため、栽培のスピードがまるで違ううえ、安定して収穫できるのです」(Tedy 林氏)

世界的な温室メーカーであるオランダのBOM Groupとパートナーシップを結んでいるNTTアグリテクノロジー。グリーンハウス建設を含むエンジニアリング業務を担当したNTTアグリテクノロジーの菊池氏は、「統合環境制御型グリーンハウス」の特徴について以下のように説明する。

「採光性の高いガラス屋根とコンピューターを用いた統合環境制御によって、広い面積でも均一的、安定的な栽培を実現できるのが特徴です。土の代わりにロックウールを使用しており、長期栽培が可能です。灌水に使用して生まれる排液は再利用し、基本的に屋外に排出しないため、周辺の水環境に影響を与えません。また、暖房に使用するボイラーの効率的な運転を行うため、大きなエコキュートのような500㎥の容量を持つ蓄熱タンクを併設しています。貯めたお湯を使って温室内を温め、ボイラーの運転時間を削減し排ガスを低減しています」(NTTアグリテクノロジー 菊池氏)

  • NTTアグリテクノロジー 菊池 翔 氏

  • 統合環境制御型グリーンハウスの内部

  • ロックウールに養液を与えることで、土を使わずにパプリカを栽培する

  • ハウス内に張り巡らされたパイプから養液が供給される