そして、酸加水分解したリュウグウ熱水抽出画分からウラシルが検出されたとする。慎重な検証の結果、これは分析操作中の汚染ではないことが確認され、間違いなくリュウグウ粒子に由来することが明らかにされた。なお試料中のウラシルの濃度は、試料1gあたり最大で32ngだった。

また同一のサンプル抽出物から、ビタミンB3も検出され、その濃度は試料1gあたり最大で99ngだったとする。ウラシルとビタミンB3は、表層サンプルのA0106よりも地表下サンプルのC0107で濃度が高く、リュウグウの最表層での宇宙線や真空紫外光による分解の影響が強く示唆されたという。研究チームによると、こうした小惑星上での有機分子の空間分布とその要因が定量的に議論された例はなく、これまでの隕石分析ではなしえないものだとする。これらの窒素複素環化合物の分布は、極低温の星間分子雲を模擬した環境での光化学反応生成物とよく一致しており、少なくとも一部は太陽系形成前の光化学反応で生成されたことが推測されるとしている。

  • リュウグウの表層および地下環境の物理化学因子モデルの概要

    リュウグウの表層および地下環境の物理化学因子モデルの概要(出所:北大プレスリリースPDF)

メタノール抽出画分からは、ウラシルやニコチン酸に加え、ピリミジンやオキサゾールなど、1分子あたりの炭素数が30にも及ぶ種々の窒素複素環化合物のアルキル同族体が検出された。これらの分布は、前述の低温光化学反応のみでは再現できないため、リュウグウおよびその母天体での化学プロセス、特に熱的な反応の寄与が大きいことが考えられるとする。

このように、小惑星リュウグウには、太陽系形成時に生成されたと考えられる初生的成分が混在しており、同小惑星が多様な起源を持つ物質から形成されたという先行研究と一致したことで、それを強く支持する成果だとしている。

今後もサンプルリターン計画が複数計画されていて、直近では米国航空宇宙局(NASA)が主導する国際共同ミッション「OSIRIS-REx」が、炭素質小惑星ベンヌのサンプルを持って、2023年9月に帰還を果たす。さらに宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2024年の打ち上げを目指し、「はやぶさ2」に次ぐ探査計画として、火星の衛星フォボスからのサンプルリターン計画「MMX」を進めている最中だ。

研究チームは、これまで培ってきた有機分子レベルでの精密分析技術や実証経験が、大規模な国際研究計画を成功へと導き、生命誕生に至るまでの物質進化、太陽系物質科学の統合的な理解に貢献できることを強く期待するとしている。