そして年代データとの比較により、これらの地質活動は、太陽系の誕生後およそ200万年以内という短期間に起こったことが確認されたという。このことは、C型小惑星は誕生直後、太陽から遠い低温領域において、水質変成や天体衝突などの地質活動が活発だったことを示すとする。そしてその後、天体破壊と再集合を経験しながら、太陽の近くまで移動してきたことが考えられるとしている。

  • リュウグウの形成過程

    リュウグウの形成過程(出所:神奈川大プレスリリースPDF)

また、リュウグウ粒子の粘土鉱物の一部からは、ナトリウムが非常に多く含まれる部分(Na2Oにして36重量%)が発見された。より詳細な分析を実施したところ、この物質は水酸化ナトリウム(NaOH)である可能性が高いことが示されたとする。

  • リュウグウ粒子に見つかったナトリウムに富む部分

    リュウグウ粒子に見つかったナトリウムに富む部分(出所:神奈川大プレスリリースPDF)

NaOHは、理論的考察からC型小惑星に水質変成を起こした水に含まれる成分の1つと予想されていたが、これまでに隕石で見つかったことはなかった。その理由は、NaOHは空気中の水分を吸収して潮解してしまうためで、地上に落下した後、長い間空気に触れている隕石中からの発見は期待できないという。今回の発見は、試料がリュウグウから直接持ち帰られたものであること、研究チームが独自開発した技術により地球の空気との接触が最小限に抑えられたことで実現されたとする。

なお極地研では、約1万7000個もの南極隕石コレクションを有しており、そのキュレーション(管理、分析、配分)を行っている。同コレクションにはほぼすべての隕石種が含まれ、たとえば「Yamato 980115」などのように、リュウグウ試料に似た隕石も見つかっている。

  • 極地研所有の南極隕石の中で、リュウグウ試料に最も似ていると考えられている「Yamato 980115隕石」(採集時の重量:772g)。黒い立方体の一辺は1cm

    極地研所有の南極隕石の中で、リュウグウ試料に最も似ていると考えられている「Yamato 980115隕石」(採集時の重量:772g)。黒い立方体の一辺は1cm(出所:神奈川大プレスリリースPDF)

南極隕石は、初期太陽系のさまざまな場所を起源としている。それに対し、リュウグウ試料は1つの小惑星から採取されたが、今回の研究でも明らかにされたように、揮発性元素など、隕石から失われた貴重な情報をたくさん有している。

研究チームは、今後リュウグウ試料の分析がさらに進み、多様な南極隕石と比較研究することで、太陽系誕生当時に数多く存在したとされるC型小惑星の形成史を詳細に明らかにすると同時に、小惑星の多様性や分布状況の解明による初期太陽系の全体像の研究、また隕石のみの研究では難しかった地球の水などの揮発性元素の起源に関する研究が進展することが期待されるとしている。