そうした中で研究チームは今回、電波望遠鏡の受信機に使用されるSISミキサが、周波数変換と増幅の2つの機能を併せ持つことを利用し、2つのSISミキサを縦続につないで増幅素子とする、まったく新しい概念のSISアンプを考案したという。

  • (上)SISミキサの動作の模式図。局部発信器で作られた局部信号(周波数f0GHz)がSISミキサに入力され、周波数fGHzの信号(f0>f)が入力されると、差の周波数(f0-fGHz)を持つ増幅された信号が出力される。(下)2つのSISミキサを縦続につないだSISアンプの模式図。2つのSISミキサに同じ周波数87.5GHzの局部信号を入力することで、入力信号と出力信号の周波数は変わらず(5GHz)、増幅だけがなされる

    (上)SISミキサの動作の模式図。局部発信器で作られた局部信号(周波数f0GHz)がSISミキサに入力され、周波数f GHzの信号(f0>f)が入力されると、差の周波数(f0-f GHz)を持つ増幅された信号が出力される。(下)2つのSISミキサを縦続につないだSISアンプの模式図。2つのSISミキサに同じ周波数87.5GHzの局部信号を入力することで、入力信号と出力信号の周波数は変わらず(5GHz)、増幅だけがなされる(出所:国立天文台プレス資料)

研究チームは2018年、SISアンプがマイクロ波の増幅効果を示す予備的な結果を得ていたものの、動作条件の理論的な解釈や構成の最適化が十分でなかったため、原理の実証にとどまっていたとする。そこで今回は、同アンプの装置構成を再検討したほか、同アンプに入力する局部信号の条件などを最適化したとのことだ。

  • 今回開発されたSISアンプ。左右両端に2つある立方体がSISミキサ

    今回開発されたSISアンプ。左右両端に2つある立方体がSISミキサ(出所:国立天文台プレス資料)

そして、特に局部信号の位相がSISアンプの性能に大きな影響を及ぼすことを理論的に見出し、局部信号発信系に位相を整える装置を導入することで、性能を最適化することに成功したとする。今回開発されたSISアンプは、雑音温度10K程度を達成し、周波数5GHz以下の入力信号に対して5dB~8dB(3~6倍)の増幅利得が実現されたとする。また、SISミキサ単体の消費電力は一般的にマイクロワット級であることから、従来の半導体増幅器に比べて消費電力が3桁以上小さい増幅器が実現されたとしている。

  • 今回開発されたSISアンプの性能測定結果。およそ5GHz以下の周波数において、雑音温度が約20K以下、増幅の利得が5~8dBとなっている

    今回開発されたSISアンプの性能測定結果。およそ5GHz以下の周波数において、雑音温度が約20K以下、増幅の利得が5~8dBとなっている(出所:国立天文台プレス資料)

研究チームによると、今回開発されたSISアンプは、トランジスタのような1つの増幅素子としてとらえられるという。また、現在の冷却低雑音半導体増幅器と比較して、同アンプは消費電力が3桁小さいにも関わらず、ノイズ・利得・周波数帯域などにおいて同等の性能を有している。

併せて、2つのSISミキサのうち、後段の回路の設計と作製方法を工夫することで、さらなる性能向上も期待できるという。それに加え、超伝導回路を小型化・集積化する研究を進めることで、多画素の電波カメラや大規模量子コンピュータなどの実現に有望だとする。

さらに、2つのSISミキサを用いた2周波コンバータのコンセプトは、ジャイレータ・サーキュレータ・アイソレータなどのさまざまな機能を持った電子部品や、従来のフェライト磁性体を使わないマイクロ波非相反回路にも応用可能だという。研究チームは、電波望遠鏡に搭載される大規模な受信機や量子コンピュータの大規模システム構築においては、さまざまな回路の小型化が課題となっている中、SISミキサを応用したアンプ等の電子部品は、その解決に資する可能性を持っているとした。