コンプトン偏光計は、検出器内でコンプトン散乱を起こしたX線の散乱角度を測定する。多くのX線を入射した時の散乱角度の分布が、入射X線の偏光度に依存するという性質を利用することで、偏光度の計測が可能だ。
電子が多価イオンに捕獲される際にX線を放出する過程には、(1)捕獲されると同時にX線を放出する「放射性再結合過程」と、(2)捕獲された後に多価イオンの周りを短時間回ってからX線を放出する「二電子性再結合過程」がある。(1)は多価イオンに捕獲される電子のエネルギーがどの値でも起こるが、(2)はある特定のエネルギーの時にしか起きない(共鳴過程)。
今回の研究では、これまでの原子物理の常識でその遷移が無偏光と考えられていたことから、(2)の過程で放出されるX線の偏光度がEBIT-CCを用いて調べられた。そして、EBIT-CCが無偏光X線の偏光度を正しく0と測定することを確認するはずだったが、いくら測定を繰り返しても結果は0ではなく、大きな偏光度が示されたという。その後もさまざまな試験と検討が繰り返されたが変化はなく、その結果、無偏光と思われていたX線が実は常識とは異なり、大きな偏光度を有していると結論付けられた。
そして理論解析の結果、今回の大きな偏光度は、特異な干渉効果の結果であることが判明。今回の偏光は、上述の2つの過程それぞれで起きる量子力学の確率の波同士が干渉した結果生じたものだったという。
(1)は(2)に比べ確率が非常に小さい過程だ。原子物理の常識では、確率が大きく異なるもの同士の干渉効果は小さいはずだが、観測された偏光度は大きく、理論解析もそれを見事に再現したとする。さらに、今回干渉した確率の2つの波の初期状態は角運動量の値が異なっており、つまり厳密には異なる初期状態を持つ2つの波が引き起こした特異な干渉であることが解明された。
研究チームによると、今回の偏光が干渉効果により大きな影響を受けるという事実は新しい知見であり、今後の宇宙観測や核融合実験などに今回の研究成果が活かされることが期待されるという。
また、多価イオンの放出するX線の偏光は、量子電磁力学で最も正確とされている理論を検証するためにも重要とする。今回観測されたものとは別の多価イオンのX線遷移の偏光度を今回と同様の手法で精密に測定することで、量子電磁力学的な相互作用を媒介する仮想光子の波動性を捉えるという、物理学の本質に迫るともいえる実験が可能になるとされている。なお、研究チームではそうした研究も進行中だとした。