電気通信大学(電通大)、東京大学(東大) 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)、筑波大学、核融合研究所(核融合研)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の5者は3月17日、多価イオンが高エネルギー電子を捕獲する際に放出する高エネルギーX線の偏光度を測定し、これまでの原子物理の常識では偏光していないと考えられていたX線遷移が大きく偏光していることを突き止めたと共同で発表した。
同成果は、電通大 レーザー新世代研究センターの中村信行教授、Kavli IPMUの高橋忠幸教授、JAXA 宇宙科学研究所(ISAS)の渡辺伸准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。
電磁波の持つ偏光度を調べることで、それを放出した原子やイオン中の電子がどの方向に運動していたかという「向き」に関する情報を得ることが可能だ。多くの電子を取り去った多価イオンが放出する電磁波はエネルギーの高いX線が多く、それらの偏光度を調べることは、多価イオンが多く存在する天体や核融合実験炉など、高温プラズマの異方性を知るために重要だ。
しかし、高エネルギーX線の偏光度の測定は困難で、まだ測定技術が確立されていないという。また、取り去る電子の数が多いほど多価イオンの生成も容易ではなくなる。
今回の研究では、鉛(Pb)原子がもともと持つ82個の電子のうち、78個を取り去った鉛多価イオン(Pb78+)が、電通大の多価イオン生成・閉じ込め装置「Tokyo-EBIT」で生成され、同装置内に閉じ込められた。
そして閉じ込めた領域に高エネルギー電子を入射すると、その電子をPb78+が強いプラスの力(クーロン力)で引き寄せ捕獲する。その際に放出されるX線が、JAXAのX線天文衛星「ひとみ」(2016年2月に打ち上げには成功したが、翌月に通信途絶で運用終了)用に開発された軟ガンマ線検出器を基に改良されたコンプトン偏光計「EBIT-CC」で観測された。