改革起点の「Reborn21」から変化を進める「PROGRESS」へ
デンソーは2020年、企業としての変革プラン「Reborn21」を発表した。これは、同年に拡大したコロナ禍の影響に加え、同社の製品における大規模な品質問題に端を発するものだという。「社会にもご迷惑をおかけしたため、2021年度末までに質の高いデンソーに生まれ変わることを目指して開始した」というReborn21では、品質の再出発を基盤に、環境への貢献や安心の提供を持続可能な形で行うことが目指された。
その実現に向けては、戦略や"仕事の進め方"の変革として、組織全体から社員個人までの各段階でさまざまな変化が進められた。原氏はデンソーの現在地について、「Reborn21を経てやっと社内の風土が少しずつ変わり、まさに今、変革の発射台に立てたのかな、と思う」と話す。
新たな改革ビジョンをなす4つの柱
そして現在はReborn21の次の段階として、2025年までの中期経営計画に合わせて立ち上がった人材・組織の改革ビジョン「PROGRESS」が進行している。このビジョンは、交通事故ゼロやカーボンニュートラル実現といった事業目的に並ぶ目標として「『実現力』のプロフェッショナル集団であること」を掲げ、「キャリア」「人材育成」「働き方・カルチャー」「評価・処遇」の4つの柱を大きく見直していくという。
「さまざまな世界初技術を生み出してきたデンソーの強みは、実現力の実績と蓄積だと考えている。今後もあらゆるパートナーと新たな"できる"を実現し、社会に実装して世の中をより良く変えていくプロであることを目指している」と語る原氏は、社内どうしや社外との共創をさらに高次元で実現するために、社員それぞれが自己新記録を更新し続けるような環境作りを推し進めているとする。
PROGRESSで重要な4つの柱の中でも、特に重視されているのは「キャリア」とのこと。「大きく事業が転換していく中で、社員個人としての幸せとデンソーとして社会に果たすべき大義を両立することが重要」と語る原氏は、従来は親子のような主従関係にあった企業と社員が、今や「選び選ばれる関係」になっていると分析する。そして、企業はあくまで社員が活躍する"舞台"であることが、今後の人材戦略における基本になるだろうと推察した。
モビリティ社会のキーワードは"つなぐ"
100年に1度の大変革を経て訪れる「モビリティ社会」に対し、デンソーは「これまでと変わらずTier1として、安全を提供する基盤づくりを行うことが役割」と原氏は話す。そして、その実現における重要なキーワードとして"つなぐ"という言葉を挙げる。「モビリティ社会では、車内の部品どうし、車と車、車と社会など、さまざまな段階をシームレスにつなぐことではじめて、新しい価値を享受できる」とし、そのつなぐ役割で貢献したいとする。
また、つなぐことの重要性は技術の面でも変わらず大きいという。今後のEV業界においては、従来からデンソーが強みとするECUなどの部品に加え、クラウドサービスとの連携などといった車外とのつながりも重要性が高まる。これは原氏の言葉を借りれば「車載ソフトウェアとITソフトウェアをつなぐ」ことであり、ソフトウェアどうし、あるいはハードウェアとソフトウェアをつなぐ界面において、同社が強みを発揮していきたいとのことだ。
重要性が高まる"デュアル人材"
では、時代を変える大変革に伴って生まれたこのような需要に応えるため、どういった人材が必要になるのか。原氏が導き出した答えは「デュアル人材」だった。
「車内と車外、リアルとバーチャル、ソフトウェアとメカトロニクスとエレクトロニクス、といった、異なる分野を一体のシステムとして考えることが必要になってきている。"界面"で力を発揮するには、1つの分野しかわからない専門家以上に、2つ以上の領域を理解する人材が重要になると考え、今まさに人材育成に取り組んでいるところだ。」
車載部品に搭載される半導体1つをとっても、ハードウェアとしての半導体に対する理解、その中で動くソフトウェアへの理解、さらには半導体性能に関するエレクトロニクス的な理解があって初めて、包括的な課題解決が実現可能となる。新製品の開発や性能向上を目指す上で、界面で価値を発揮するためには、やはりそれぞれをつなぐことの重要性が高いとのことだ。