カーボンニュートラルやSDGsに対する社会的要求が高まる昨今、特に自動車業界においては、世の中の大勢を占めていたガソリン車から、電気自動車(EV)をはじめとする環境性能の高いモビリティへの転換が本格化し、"100年に1度の大転換"と言われる大規模な変化が起こっている。
自動車業界のTier1として長年先頭集団を走り続けてきたデンソーも、その影響を大きく受ける企業だ。ものづくり企業として実績を積み上げてきた同社は、次世代のニーズに応え続けるため、大規模な改革を迫られている。
中でも大きな影響が予測されるのが、人材の問題。業界全体において"ソフトウェア人材"の不足が叫ばれる中、その人材をまさに必要とするデンソーは、2021年から人材戦略について大きな変革を始動している。今回は、その人材戦略を司る同社執行幹部の原雄介氏に、これからの人材戦略と、未来の企業価値について話を伺った。
人材戦略改革の背景にある「3つの変化」
原氏は、デンソーが人材戦略を大きく変換させるに至った背景として、社会全体における「3つの大きな変化」があるとする。
「産業構造」の変化
まず挙げられたのは、「産業構造」の変化だ。原氏はこれまでの自動車業界について、自動車の普及や輸出拡大に伴う高度成長が続いた"モータリゼーション"ののち、メーカーが世界各地に拠点を置き国際的に販路を拡大する"グローバリゼーション"の流れへと進んでいったと分析。そして現状については、産業界全体に"デジタライゼーション"の時代が到来しており、原氏はその先に続く「デジタル産業革命」について次のように語る。
「これまでいくつかの踊り場はありながらも右肩上がりで成長を続けてきた自動車業界だが、ここにきて産業構造が変わるという大きな波が来た。そういった中では、従来のように設備などの生産能力増強ではなく、『働く人』への投資を最優先で進めなければならないと考えている。」
「社会」の変化
原氏は続けて、「社会」の変化を挙げる。
「SDGsへの関心が高まって持続可能な社会に貢献することが求められる中、見える価値だけでなく"無形資産"のような見えない価値が企業の価値を決定づける時代になってきた。」
原氏は、ソフトウェアや知的財産などを含む無形資産の中でも、人的資本を最重要だと考えているという。そのため、「人材組織戦略を経営戦略の原点だと捉え、強く連動させながら人的資本の価値を高めていく」としている。
「価値観」の変化
そして、最後に挙げたのは「価値観」の変化だった。
自動車産業が順調に成長していた時代には、キャリアパスが明確で、所属する会社にキャリアを委ねていても自己成長ややりがいを実現できた。しかし前述したように、自動車産業界は産業構造の変化を受けて事業の転換を求められており、将来のキャリアを見通しにくくなっているのが現状だ。
「コロナ禍の影響に限らず、時代と共に社員と会社の関係が変容している」とする原氏は、「社員ひとりひとりのキャリアにおけるやりがいを高めるためには、しっかりと会社として手を打つ必要がある」とした。
そして、近年生じているこれらの3つの変化に対応した上で企業としての価値を生むために、デンソー全体として人事戦略の改革に取り組んでいるとする。