「今日私たちは、小型衛星打ち上げの商業化のための新しいロケットを手に入れたのです」――。

インド宇宙研究機関(ISRO)は2023年2月10日、新型ロケット「SSLV」の打ち上げに成功した。SSLVの打ち上げは2機目で、昨年の初打ち上げは失敗しており、これが初めての成功となった。

SSLVは約500kgまでの小型・超小型衛星を打ち上げることを目的としたロケットで、製造や打ち上げ運用、販売体制などの効率化により低コストかつ高頻度の打ち上げを目指し、近年需要が高まっている小型衛星の打ち上げ市場でのシェア獲得を狙う。

  • サティシュ・ダワン宇宙センターを離昇したSSLV D2

    サティシュ・ダワン宇宙センターを離昇したSSLV D2 (C) ISRO

SSLVとは?

SSLV(Small Satellite Launch Vehicle:小型衛星打ち上げロケット)はISROが開発したロケットで、その名のとおり、小型・超小型衛星を打ち上げることを目的としたロケットである。

ロケットの全長は34m、直径は2mで、打ち上げ時の質量は約120t。世界の衛星打ち上げ用ロケットの中でもとくに小さく、超小型ロケット(Micro Launcher)に分類される。

機体は4段式で、1段目から3段目は固体ロケット、最終段の第4段のみ液体ロケットを使う。

ISROでは、1段目と3段目は新たに開発したもので、2段目は中型ロケット「PSLV」の3段目から派生したものだとしている。ただ、機体の寸法や性能などの観点から、インドの大陸間弾道ミサイル(ICBM)の「アグニV」との共通点もみられる。固体ロケットはその構造上、寸法、とくに機体直径が共通していれば同一の機体である可能性が高い。その場合、1段目はアグニVに使われているモーターを3セグメント化(アグニVは1セグメントのみ)したものを使用し、2段目、3段目はほぼそのまま流用したとみられる。

最終段は「VTM(Velocity Trimming Module)」という名前があり、小さなロケットエンジンで速度の調節をすることを目的としている。固体ロケットは一度点火すると推進薬がなくなるまで燃焼を止めることはできず、またスロットリング(推力の調整)もできず、さらに性能に個体差もある。そのため、固体ロケットだけでは軌道投入精度が落ちてしまう。そこで、最終段に液体ロケットを使うことで最後の微調整を行い、精密な軌道投入を可能にしている。

打ち上げ能力は、高度約500kmの地球低軌道に約500kg、極軌道には約300kgとされる。

打ち上げコストについては、ISROは具体的な金額を明らかにしていないが、インドの報道では約3.6億ルピー(現在の為替レートで約6億円)という数字が出ている。後述するように、これは他国の同クラスのロケットと比べても破格で、弾道ミサイル由来のロケットであることや、大前提としてインドの物価の安さが効いている。

また、ロケットの打ち上げ間隔は最短で1週間未満としており、高頻度の打ち上げに対応できるという。これも弾道ミサイル由来のロケットであること、また比較的取り扱いしやすい固体ロケットであることが大きい。

さらに、ナノ衛星、マイクロ衛星、ミニ衛星といった、質量10kgから300kgまでの衛星を最大3機まとめて打ち上げる能力をもっており、さまざまな需要に応えられるとしている。

くわえて、打ち上げる発射場も最小限でよく、打ち上げに必要な人員もわずか6人としており、大幅な省力化を図っている。

こうした低コスト、高頻度打ち上げ、柔軟性、そして省力化という4つの特長を武器に、近年需要が高まっている小型衛星の打ち上げ市場でのシェア獲得を狙っている。

  • 打ち上げを待つSSLV D2

    打ち上げを待つSSLV D2 (C) ISRO

SSLV D2の打ち上げ成功

SSLVの開発1号機(D1)は、2022年8月7日に打ち上げられた。しかし、軌道に乗ることができず、失敗に終わった。

その後の調査で、2段目と3段目の分離時に、機器搭載部で想定以上の振動が起き、それにより加速度センサーが飽和(いわゆる”サチった”)ことで、ロケットの航法システムが故障と判断。加速度センサーを使用せずに飛行するモードに入り、打ち上げを継続した。しかしその結果、軌道速度にわずかに達することができず、打ち上げは失敗。ロケットの最終段と搭載していた衛星はともに大気圏に再突入することとなった。

この失敗を受け、ISROでは機器搭載部の構造の強化や、航法システムのソフトウェアの改良、また同様のトラブルが起きた際にはVTMの追加噴射で、最低限軌道には乗れるように飛行できるモードを追加するなどの改修、改良を施した。

そして日本時間2月10日12時48分(インド標準時同日9時18分)、ISROはSSLV開発2号機(D2)を、インド南部のシュリーハリコータ島にあるサティシュ・ダワン宇宙センターから打ち上げた。

ロケットは順調に飛行し、1号機でつまずいた2段目と3段目の分離にも無事にこなし、そして離昇から約15分後、搭載していた3機の衛星を、高度約450km、軌道傾斜角37.2度の軌道に投入。打ち上げは見事に成功した。

今回のSSLV D2に搭載されていたのは、ISROの地球観測衛星「EOS-07」(質量152.6kg)を筆頭に、米国のANTARISが開発した技術実証衛星「Janus-1」(質量10.2kg)、インド全土から集まった750人の女子学生による学生衛星開発プロジェクト「Space Kidz India」が開発した「Azaadi Sat」(8.8kg)の計3機だった。

打ち上げ成功を受け、ISROは「今日の成功した打ち上げにより、インドは産業界の要求にマッチした、小型衛星打ち上げの商業化のための新しいロケットを手に入れました。世界的に高まる小型衛星の打ち上げのニーズに、ISROとして応えていけることを楽しみにしています」との声明を発表している。

  • SSLV D2の打ち上げの様子

    SSLV D2の打ち上げの様子 (C) ISRO