6空間モード多重伝送では、空間モードの置換候補総数は720通り(6の階乗)であったのに対し、10空間モード多重伝送では約363万通り(10の階乗)へと爆発的に増大する。そのため、拡張巡回モード群置換技術による空間モード多重信号特性の高い平準化効果を得るためには、空間モードの伝送特性を熟慮した上で置換方式を選択することが重要だという。そこで今回は、光学的特性の似た空間モードをグループとして取り扱う「モード群」の特性に着目し、2通りの置換方式を選択することにしたとする。
方式1は置換を「対称的」に行うもので、たとえば、空間モード1と空間モード10を入れ替え、空間モード2と空間モード9を入れ替えるような形でそれぞれの空間モードに対して対称的な入れ替えを行う。同方式では、光学特性が最も異なるモード群の入れ替え(モード群1とモード群4)により高い平準化効果を期待できる一方で、入れ替えの前後で同じモード群へ置換される空間モード(空間モード5や空間モード6)の組み合わせが出てしまうという課題もある。
このような組み合わせが発生することを回避するため、方式2では置換の前後で必ずモード群の変換が起こる組み合わせの選択を行うようにしたとする。提案された置換方式は中継スパンごとに順次行われるため、複数回の中継伝送後にモード分散を含む空間モードごとの伝送特性の平準化効果が得られ、長距離伝送の実現を期待できるとしている。
今回、拡張巡回モード群置換技術を導入した10並列の周回信号伝送評価系を構築し、標準クラッド径グレーデッドインデックス型屈折率分布を有する10空間モード多重光ファイバを光伝送媒体として用いた長距離伝送実験が行われた。
その結果、中継増幅間隔おきに各空間モードを入れ替えることにより光学特性がやがて平準化され、モード分散累積に起因する信号パルスの拡がりが、100kmを超える伝送距離で大きく低減されることを確認できたという。また、信号パルス拡がりの低減効果は方式2の方が顕著であったことから、置換の前後で必ずモード群の変換を起こす組み合わせが、よりモード分散の高い平準化効果を示すことが判明したとする。特に方式2を用いた場合、1300kmの距離を伝送した後に、従来伝送と比較して82%の信号パルス拡がりの低減効果が得られたとした。この結果は同時に、受信側のMIMO信号処理の規模を従来と比較して約5分の1へ低減できる可能性を示唆するとしている。
また1300km伝送後には、すべての伝送チャネルにおいて誤り訂正復号閾値を上回る良好な信号特性が確認された。この結果により、既存のSMFと同じ標準クラッド径のMMFを用いた空間モード多重伝送において、10空間多重信号の世界最長伝送記録が達成されたとする。
NTTは今後、線路技術や光増幅技術などの関連技術分野と連携のもと、10空間モード多重級の光信号を効率良く処理可能なMIMO信号処理を用いたシステム実現技術の確立を目指すとしている。