NTTは3月6日、これまでの光ファイバと同じ直径を保ちながら、伝送容量を10倍に拡大可能な「空間モード多重光ファイバ」によって、1300kmの10空間モード多重信号の光増幅中継伝送に成功したことを発表した。なお同社は、これが世界最長の伝送になるとしている。
詳細は、米国カリフォルニア州サンディエゴで現地時間3月9日まで開催中の光通信技術に関する国際会議「OFC2023」において発表された。
通信需要の増加に対応する光通信技術として、光ファイバ中の光の「通り道」の数(多重数)を増やすことで、1本あたりの伝送容量の飛躍的な向上を期待できる「空間分割多重技術」が注目されている。
その1形態である「空間モード多重伝送技術」では、「マルチモードファイバ」(MMF)が利用される。MMFは、複数の空間モードを用いてそれぞれ異なる情報を送ることで、伝送容量を多重数(空間モード数)に応じて増やすことが可能だ。特に、これまでのシングルモード光ファイバ(SMF)と同じ直径(標準クラッド径)を維持したままでも、単一の光ファイバで10以上の多重数へ容易に拡張することができる。
一方で、受信側で情報を取り出す際には、伝送途中に発生する異なる空間モードの光信号の混じり合い(空間モード結合)や、各空間モード光信号の受信器への到着時間のずれ(モード分散)によって生じる信号波形の歪みを、受信器におけるMIMO型デジタル信号処理によって取り除く必要がある。
特に、より多数の空間モードを使うほど、また距離が長くなるほどモード分散の影響は大きくなり、それに応じて要求されるMIMO信号処理量がボトルネックとなるため、空間多重数の拡張と光信号の長距離伝送の両立が困難だったという。
そこで今回の研究では、これまでの6空間モード多重伝送の研究で培われてきた技術を拡張し、より多くの空間モードを持つ光伝送路向けに対応可能な「拡張巡回モード群置換技術」を提案することにしたという。同技術では、10以上の空間モード多重伝送を行う際に顕在化する各空間モードの光伝送特性差(光損失、伝搬遅延時間など)を平準化するため、光増幅中継器において空間モード間での強制的な光信号の入れ替え(置換)を効率的に行う。その結果、モード置換に伴う信号損失劣化を低減しつつ、伝送中に累積するモード分散を抑圧できるため、受信器内でのMIMO信号処理量を低負荷化でき、結果として長距離伝送が可能になるとする。