MTeは高圧の印加でNaCl型からCsCl型構造に相転移し、CsCl型構造において高いTcが発現する。そこで電気抵抗を測定したところ、Tcの圧力依存性が観測された。続けて圧力に対するTcの変化率の評価を行ったところ、ΔSmixが0.5R~1.0R近傍でdTc/dPが小さくなり、Tc不変現象が発現することがわかった。この急激な変化率の変化が生じるΔSmixは、Mサイト元素を2から3元素に増加することで生じることが判明。つまりTc不変現象は、Mサイトが3元素以上を含む場合に発現していたのである。

次に、同現象の起源を探るため、分子動力学シュミレーションにより原子振動特性が評価された。通常の結晶であれば、対応する振動数にピーク構造を持つが、Mサイトが3元素以上のMTeにおいてはピークが消失し、ブロードな構造のみが観測される。このことから、MサイトのΔSmix上昇によって導入された局所構造乱れが、原子振動特性を大きく変調することが判明したという。また、観測されたブロードな構造はガラスなどで観測される状態密度と似ているとした。

次に、第一原理計算によって、Tc不変現象が発現するCsCl型構造での電子状態が評価された。PbTeと、Mサイトを3元素および5元素で固溶した場合の結果を比較すると、バンドがぼやけていることが明らかとなった。このことは、Mサイトの多元素固溶が電子バンドを大きく変調することが示されているという。一方、Teサイトは固溶していないため、Te原子の軌道に起因するバンドの変調は少ないこともわかった。以上のことから、Mサイトを3元素以上で多元素固溶することで、原子振動特性や電子状態が大きな変調を受け、ガラスのような状態になることが見出されたとする。

  • (左上)PbTeとハイエントロピー型(Ag,In,Sn,Pb,Bi)Teの結晶構造。どちらも高圧の印加でNaCl型からCsCl型構造に相転移する。(右上・a)Tcの圧力依存性。図中のHEAはハイエントロピー組成の試料。(右上・b)Tcの圧力に対する変化がΔSmixの依存性としてプロットされた図。(下)CsCl型構造における電子状態

    (左上)PbTeとハイエントロピー型(Ag,In,Sn,Pb,Bi)Teの結晶構造。どちらも高圧の印加でNaCl型からCsCl型構造に相転移する。(右上・a)Tcの圧力依存性。図中のHEAはハイエントロピー組成の試料。(右上・b)Tcの圧力に対する変化がΔSmixの依存性としてプロットされた図。(下)CsCl型構造における電子状態(出所:JASRI Webサイト)

高圧下で観測されるTc不変現象は、従来型超伝導機構では単純に理解できないという。そのため、通常の結晶では現れない特異な原子振動と電子状態が、同現象を生じさせている可能性があるとする。研究チームは今後、単結晶試料を用いた測定や、超伝導機構に関する理論研究が進むことで、同現象のさらなる解明が期待されるとした。