光レドックス反応の触媒サイクルでは、光励起されたイリジウム触媒と4-アルキル-1,4-ジヒドロピリジンとの間の単一電子移動により、フリーラジカルであるアルキルラジカルが系内に生成される。

一方、不斉プロパルギル位置換反応の触媒サイクルでは、ルテニウム触媒が、プロパルギルアルコールの配位と脱水により、触媒的プロパルギル位置換反応における重要な反応中間体であるアレニリデン錯体へと変換される。ここでアレニリデン錯体がフリーラジカルであるアルキルラジカルを補足してアルキニルラジカル錯体となり、さらにイリジウム触媒との単一電子移動によりアルキニル錯体へと変換され、プロトンの授受後に、高いエナンチオ選択性でプロパルギル位アルキル化生成物が得られると考えられるとしている。

すなわち、ルテニウム触媒の中心骨格が、ラジカル反応や単一電子移動で生成する反応中間体を安定化する鍵として働くことで、同触媒反応が進行することが推定され、このことは密度汎関数理論に基づく電子状態計算法であるDFT計算の結果とも一致するとした。

研究チームによると今回の反応系は、可視光照射下、常温で反応が進行しており、従来のプロパルギル位置換反応やアルキル化反応と比べ、反応条件はよりマイルドだという。さらに、従来の反応系で必要だった有機金属アルキル化剤やハロゲン試薬を必要としないため、カップリング反応などを利用したアルキル基を導入する従来法と比べてより環境に優しいクリーンな反応系であることも優れた点としている。