具体的には、インゲン豆の葉の半分に分類上の科が違う4種のイモムシ(カイコ、セスジスズメ、ナミアゲハ、ハスモンヨトウ)を歩かせ、歩いていない残り半分と、どちらにナミハダニまたはカンザワハダニのメスが定着するかの調査を行ったという。メスの成虫を選んだのは、ハダニの居場所を決定するのがメスの成虫であるためで、メスは脚にある匂いセンサで植物を吟味して、栄養状態の良い葉っぱを見つけることが知られているためだという。
実験の結果、多くのハダニが4種類のどの足跡であっても避けることを確認。中には、みかんの仲間の葉っぱを食べるナミアゲハと、その葉っぱを食べないナミハダニという自然界では起こらない組み合わせであっても、避けていることも判明。また、その忌避効果についてカイコを使って調べたところ、2日以上持続することも確認したという。
これを踏まえ、研究グループではイモムシに共通するモノを避けていることが考えられたとし、その正体を探る調査も実施。カイコの足跡を調べたところ、化学物質の採取に成功。ハダニは、この物質を感知して避けているという判断に至ったという。
ただし、この化学物質は現時点では分析中であり、具体的にはどういったものであるかはまだ分かっていない。今後、詳細な分析により特定されれば、イモムシ由来の同成分を使って農作物からハダニを追い出すことができる可能性がでてきたことから、研究グループでも、特定できた後は、成分を合成して作成し、その効果測定を試したいとしているほか、将来的にはその成果を踏まえ、農薬メーカーなど、商用展開をしてくれるパートナーと協力して実用化を進めていきたいとしている。
また、今回の研究成果について研究グループでは、草食性動物が肉食性動物から身を守る行動を取ること自体は常識だが、それは不十分な理解で、より小さな草食性の生き物は偶発的ギルド内捕食を防ぐ術を備えていることが示された例と説明するほか、薬剤耐性が強いハダニであっても、自然界由来の成分を活用することができれば、農作物から追い出すことができる可能性が示されたとしており、これまでのこうした2つの常識をアップデートできる可能性が示されたとする。特に、忌避剤としてのイモムシの足跡物質の活用は、もしハダニがそれに対する耐性を獲得した場合、イモムシと出会う確率が高まり、ギルド内捕食が生じる可能性が出てくるため、耐性が進化しにくいと考えられるとしている。なお、研究グループでは、「自然界で生き物のバランスを保つ目に見えない力は、まだ分かっていないだけで沢山ある可能性がある。それを見つけて、上手く活用することができれば、持続可能な農業の実現につながることが期待される」とコメントしている。