プロトタイプの耐放射線Ka帯フェーズドアレイ無線機は、64素子のアレイアンテナおよび16チップのフェーズドアレイICで構成された。各アンテナ素子は、右旋・左旋の両円偏波に対応する2つのポートを持つため、1つの同ICに対して4つのアンテナ素子が接続される。また1つの同ICは、4つの放射線センサと8系統の受信機を持っており、受信機はそれぞれ4素子の両偏波対応アンテナに接続され、各アレイ素子の放射線劣化をIC内部の直近の位置で検出することが可能だ。そして、安価で量産可能なシリコンCMOSプロセスで製造され、ウェハレベル・チップ・スケール・パッケージ(WLCSP)パッケージが採用された。
無線機を実際に試作し、高速通信性能および低消費電力特性の評価を行った結果、高速通信が可能なKa帯の25.9~30.1GHzにおいて動作し、受信感度を決める雑音指数は3.6dBであることが確認された。また併せてOTA測定が行われ、256APSK変調時に、右旋・左旋の両円偏波にて最大で8Gbpsの通信速度が達成された。さらに、同無線機の消費電力は1系統あたり2.95mWであり、最新のフェーズドアレイ無線機と比較しても、5分の1以下の低消費電力化に成功したという。
加えて、同無線機に対する放射線照射(コバルト60ガンマ線)が行われ、照射された総電離線量の検出と無線機性能劣化の補償を行うことで、有効性が確かめられた。放射線による劣化が一様ではなく勾配を持つように、各アレイ素子と線源の距離が異なる形でフェーズドアレイ無線機が配置され、各アレイ素子で放射線センサを用いた総電離線量の検出が行われた。
研究チームによると、放射線センサは全部で64個あり、それぞれのアレイ素子に対応した総電離線量を計算で求めたのち、その値と、実際に放射線センサで得られた検出値の比較により、開発された放射線センサで良好な検出特性が得られていることが確認されたという。さらに、検出値を用いて各素子における特性劣化を補償することで、2dB以上の利得性能の改善に成功したとする。
なお、今回の研究の耐放射線無線機は、並行して研究開発を進めている省電力送信系のフェーズドアレイ無線機と共に、数年以内にアクセルスペースが開発する小型衛星に搭載され、衛星コンステレーションを構築するための実験衛星として打ち上げられる予定だとしている。