その結果、いて座A*の北西、約3分角(20光年の距離に相当)離れた方向に、1つの特異な分子雲を発見することに成功したとする。同分子雲は周囲の分子雲群から明瞭に孤立しており、「おたまじゃくし」様の空間速度構造を有している特徴的な姿をしており、NAOJ 野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡を用いて取得されたCOおよび硫化炭素サーベイデータ中からも、その存在が確認されたという。
詳細な解析の結果、「おたまじゃくし」は天球面上で円弧状の形態を有し、それに沿って視線速度が連続的に変化していることが判明。この空間速度構造は、1つの閉じた軌道上に沿って分子ガスが分布・運動していることを示唆しているという。
そしてこの観測された空間速度構造は、10万太陽質量の質点周りのケプラー軌道によって極めてよく再現されたともしており、このことについて研究チームでは、「おたまじゃくし」がそのように巨大な質量を持つ点状重力源を周回していることを意味しているとするほか、複数の分子スペクトル線強度の情報から得られる物理状態の振る舞いから、ガスが点状重力源に捕捉された様子を示していることがわかったとしている。
さらに、その点状重力源の正体を探るべく、「おたまじゃくし」を含む天域における、さまざまな波長のイメージによる確認を行ったところ、想定される位置に明るい天体を発見できないことから、点状重力源が星団である可能性は低いとされたほか、軌道要素から与えられる質量密度の下限値が膨大であることから、この点状重力源が中質量ブラックホールである可能性が強く示唆されたとする。
研究チームでは、こうした事実から、この「おたまじゃくし」は、約10万太陽質量の不活性なブラックホールとの重力相互作用によって加速された分子雲であることが考えられると説明している。また、分子ガスの分布・運動から示唆された中質量ブラックホール候補天体の中で、今回の天体は最も確度が高いとも説明しているほか、いて座Aの近傍にあることから、将来的に「おたまじゃくし」を駆動する中質量ブラックホールは、いて座Aに飲み込まれていく運命にあるともしている。
なお、今後、研究チームは、ケプラー軌道上にある分子ガスを明瞭に捉えることを目的に、アルマ望遠鏡による高解像度観測を行う予定としている。詳細な構造を把握することで、精密な軌道パラメータの決定が期待されるためで、アルマ望遠鏡での観測と対応天体の探索から、「おたまじゃくし」を形成する点状重力源の実体が明らかになる可能性があるとしている。