慶應義塾大学(慶大)と国立天文台(NAOJ)、神奈川大学は2月16日、天の川銀河の中心に位置する、太陽のおよそ400万倍の質量を持つ大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」の近傍に孤立して存在する「おたまじゃくし」様の分子雲を発見し、その構造が太陽質量の10万倍ほどの「中質量ブラックホール」により形成されている可能性が高いことを明らかにしたと発表した。

同成果は、慶大大学院 理工学研究科の金子美由起大学院生、同・大学 理工学部物理学科の岡朋治教授、同・大学院 理工学研究科の横塚弘樹大学院生(研究当時)、同・大学 理工学部物理学科の榎谷玲依研究員、神奈川大 工学部物理学教室の竹川俊也特別助教、NAOJ 科学研究部の岩田悠平特任研究員、慶大大学院 理工学研究科の辻本志保大学院生(研究当時)らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

いて座A*のような大質量ブラックホールは、質量の小さな恒星級ブラックホールが合体して、まず中質量ブラックホールを形成し、さらにそれが合体することで形成されると考えられている。ただしその仮説には課題がいくつかあり、その1つが太陽の100~10万倍程度と考えられている中質量ブラックホールがまだ検出されていないという点である。

ただし候補天体は複数あり、その1つが、いて座A*近傍の星団「IRS13E」内に存在する太陽の数千倍の質量を持った天体である。また、研究チームによれば、そのほかにも銀河系中心分子層のある領域には、中質量ブラックホールが複数存在している可能性があるとしているが、確たる証拠がないため、現在はどれも候補として留まっている状況だという。

中質量ブラックホールの存在を確認するためには、ブラックホールのような点状重力源によって生み出されるガスの運動状態を、正確に再現している分子雲を検出することが重要となるとされていることから、研究チームは今回、ハワイ・マウナケア山頂にあるジェームズ・クラーク・マクスウェル電波望遠鏡により取得された一酸化炭素(CO)の回転スペクトル線サーベイデータを精査し、点状重力源との相互作用によって生じたとされるコンパクトかつ広速度幅な分子雲の探査を集中的に行うことにしたという。