その起源を解明するため、続いて放射光X線回折(SR-XRD)実験が行われた。その結果、ペロブスカイト型構造の単位格子のコーナー位置であるAサイトを占めるBaイオンとBiイオンのうち、Biイオンだけが理想的な原子位置から結晶軸方向にずれて配置することから、Aサイトに局部的な分極構造が形成され、これがナノドメインの起源となることが明らかにされた。
強誘電性を示す圧電材料の圧電特性は、結晶の単位構造由来の本質的寄与と強誘電分域(ドメイン)などを由来とする非本質寄与で説明され、一般に、本質的な寄与分を除いたすべての寄与分が一括りに非本質的な寄与によるものと考えられてきたという。非本質的な効果をさらに明確に分類することは、圧電応答の起源を理解する上で重要だ。そこで、電場下でのSR-XRD実験が行われ、圧電効果におけるそれぞれの寄与が見積もられた。
その結果、BTの濃度が0.3や0.4のセラミックスである「0.70BF-0.30BT」や「0.60BF-0.40BT」では、非本質的な効果にはナノドメイン内でBiイオンが電場下で再配列する効果しかなく、通常の強誘電ドメイン由来の効果は存在しないことが確かめられた。
この実験では、0.70BF-0.30BTセラミックスが最も高い圧電性能を示すが、結晶の単位構造に由来する本質的な圧電効果の寄与を大きくすること自体は困難だ。そのことから、Biイオンのオフセンタリングによって形成されたナノドメインによる圧電性への寄与を大きくすることで、この材料の圧電性が格段に向上することが考えられるとした。
このように、構造乱れを有するナノドメインを結晶に導入し、電場下でその乱れを整え、分極方向を電場方向にそろえるということをすれば、鉛を含まなくても優れた高性能圧電材料を開発できることが解明されたのである。
これまで、環境に優しい圧電材料として、Biイオンを含む圧電材料がこれまで数多く研究されてきたが、誘電物性の発現機構を明確に理解する物理的解釈が不十分だった。しかし研究チームは、今回の研究で判明した、ナノドメインを形成し電場下で制御するという新しい概念を用いれば、より高性能な強誘電体・圧電体材料を開発できることが期待されるとしている。