実際に同分光器を用いた計測が行われたところ、プラズマの中心位置(プラズマ生成用レーザーの軸上)では、周辺部より低密度の中空様構造が形成されていることが判明。さまざまな条件で計測された結果、その中空様構造が、高効率化に重要な役割を果たしている可能性が大きいことがわかってきたという。ただし、この中空様構造が発現すると、なぜEUV放射に適した高温・高密度プラズマが比較的長時間維持されるのかはわからなかったという。
そこで研究チームはプラズマの温度、密度、その流動が重要と考え、トムソン散乱光スペクトルのドップラーシフトに着目することにしたとする。プラズマ流動の速度は光速の1万分の1程度であり、受光する散乱光の同シフトにはプラズマの流動情報が明確に現れるという。同シフトの高度な解析が行われた結果、±20μm程度の微小領域内で、プラズマ流の方向は180度反転し、流れの大きさもさまざまに変化するなど、微細な速度場構造が存在することや、それが速度の絶対値(秒速10km程度の高速な流れ)として可視化されていることが確認されたとする。
また、プラズマの中心軸上に向かう、特徴的なプラズマの流れも観測されたとする。その流れは常に存在するわけではなく、プラズマ生成条件に依存していたことから、同条件で流れを制御できることが判明したほか、プラズマ内部の温度・密度・流れ場の時間・空間変化を基に、その流れによりEUV放射の効率を高めていることが解明されたとする。
これは、中空構造発現時に生じる中心軸上に向かう流れにより、EUV発光に適したプラズマが、中心部に長時間留まる効果を有することが発見されたことを示す結果であり、この一連のプラズマ速度計測技術は、EUV光源のさらなる高出力化の鍵となると同時に、プラズマの流れを制御して光の出力を向上させるという、まったく新しい概念の可能性が示されていると研究チームでは説明している。
なお、今回の研究により、EUVの高出力化には、プラズマの温度と密度の最適化が必須で、その最適な温度・密度を実現するには、プラズマの流れの制御が重要であることが示されることとなり、特に、中心方向への流れを誘起することは、効率よく光るプラズマを長時間閉じ込めることや、プラズマの保温効果があることが示されたことから、研究チームでは、この流れはまた、プラズマの運動エネルギーを抑える効果も期待できるとしている。
また、速度場、すなわち流れ場を非接触に可視化するプラズマ速度計測技術は、フェムト秒からナノ秒までのすべてのレーザープロセスにおける「その場観測」の実現が期待されるともしており、今後は、EUV光源開発だけでなく、幅広い分野での応用が期待できるとしている。