サンプル・リターン・ミッションの打ち上げは2027年にも

遠く離れた火星で、ロボットの探査機が活躍を続ける一方、地球の科学者と技術者は、これらのサンプルを回収し、地球に持ち帰るための「マーズ・サンプル・リターン」ミッションの計画を進めている。

この計画はNASAと欧州宇宙機関(ESA)が協力して進めており、NASAは火星に着陸してサンプルを回収する着陸機(ランダー)を、ESAはそのサンプルを火星から地球まで持ち帰る周回機(オービター)を開発する。

まず2027年にESAが開発するオービターを打ち上げ、続いて2028年にはNASAのランダーを打ち上げる。オービターは火星を回る軌道に入り、ランダーは火星のイェゼロ・クレーターに着陸する。ここでパーサヴィアランスがまだ正常に稼働していれば、ランダーにサンプルの入ったチューブを受け渡し、そしてランダーに搭載された小型ロケットに載せ、火星を回る軌道へ打ち上げる。そして、軌道上で待ち構えていたオービターがそれを捕まえ、チューブを受け取ったのち、火星軌道を離脱。2033年ごろ、地球に帰還する予定となっている。

もし、ランダーが着陸した時点でパーサヴィアランスが故障するなどしていた場合には、ランダーに搭載された2機の小型ヘリコプターが発進。今回パーサヴィアランスが地上に設置したチューブを回収し、ランダーまで運び、そのあとは同じように地球へ送り届けられることになる。

この火星ヘリコプターは、パーサヴィアランスに搭載されて火星へ送られた「インジェニュイティ」の設計をもとに開発される。インジェニュイティは2021年4月に火星で初飛行を行い、その後も飛行距離を伸ばしたり、姿勢を変化させながら飛んだりといった飛行試験を繰り返し、41回飛んだいまなお健在である。

じつは、当初のマーズ・サンプル・リターン計画の検討では、ヘリコプターではなく探査車を送り込むことが考えられていた。しかし、パーサヴィアランスの姉妹にあたる探査車「キュリオシティ」が2012年の着陸から10年以上にわたって正常に稼動していることに加え、インジェニュイティが期待以上の活躍を見せたこともあり、現在の計画に変更されたという経緯がある。

パーサヴィアランスが集めたサンプルは、掘り起こされる日を待ちながらしばし眠り続ける。まるで卒業式の日に埋めるタイムカプセルのようだが、決して比喩ではなく、まぎれもなくそれは太古の火星の記憶をもったタイムカプセルなのである。

  • マーズ・サンプル・リターン計画の想像図

    マーズ・サンプル・リターン計画の想像図。オービターとランダー、ランダーに搭載される小型ロケットとヘリコプターからなる複雑で壮大な計画である (C) NASA/JPL-Caltech

  • 火星ヘリコプター「インジェニュイティ」

    火星ヘリコプター「インジェニュイティ」。パーサヴィアランスに搭載されて火星へ送られ、これまでに41回、火星の空を飛行した。その技術はマーズ・サンプル・リターンにも活かされる (C) NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS

パーサヴィアランスは新たな科学ミッションへ

チューブの設置という大事なミッションを終えたパーサヴィアランスは、新たなミッションに臨む。

これからパーサヴィアランスは、チューブを設置した場所を離れ、以前に探査した「ホークスビル・ギャップ」と呼ばれる場所を登り、「ロッキー・トップ」と呼ばれる高い場所を通過。そしてこれまで訪れたことのないデルタ地帯を目指す。

パーサヴィアランスのプロジェクト・サイエンティストを務めるケン・ファーレイ(Ken Farley)氏は「デルタ地帯の底部からロッキー・トップの場所までにある岩石は、湖の中の環境で堆積したように見えます。また、ロッキー・トップのすぐ上の岩石は、湖に流れ込んでいた火星の川の中か端の部分で生成されたようです」と語っている。

「そしてデルタ地帯を川のあったほうへ向かって進むと、砂から大きな岩まで、より大きな粒子で構成された岩石がみられるようになると予想しています。これらの物質は、おそらくもともとはイェゼロ・クレーターのある場所の外側に由来し、侵食された結果、クレーターに流れ込んだのでしょう」。

このあとパーサヴィアランスが最初に立ち寄るのは、科学者チームが「カーヴィリニア・ユニット(Curvilinear Unit)」と呼んでいる場所である。ここは火星の“砂州”とみられる場所で、イェゼロ・クレーターへ流れ込んでいた川のひとつの、湾曲した部分に堆積した堆積物でできていると考えられている。科学者たちは砂岩や泥岩の露頭を探し、分析することで、イェゼロ・クレーターの壁の向こう側の地質学的プロセスを調べたいと語っている。

  • 火星の地表からレゴリスを採取するパーサヴィアランス

    火星の地表からレゴリスを採取するパーサヴィアランス (C) NASA/JPL-Caltech

参考文献

NASA JPLさんはTwitterを使っています: 「Someone understood the assignment. It's official: @NASAPersevere has dropped the final tube for the #MarsSampleReturn depot! Ten samples have been deposited on the Martian surface and could be returned to Earth for in-depth analysis in the future. / Twitter
NASA’s Perseverance Rover Completes Mars Sample Depot
Mars Sample Return - NASA Mars
Mars 2020 Perseverance Rover - NASA Mars
Mars Rock Samples - NASA Mars Exploration