2023年1月23日正午、法務省の地図作成事業として整備され、全国の法務局に備え付けられていた「登記所備付地図」のXML形式の電子データがオンラインで公開された。地番情報と土地の位置・区画が明確な高精度地図が広くオープンなデータとなったことで、GIS(地理情報システム)コミュニティから歓迎の声が上がり、公開直後には配布元であるG空間情報センターのサイトがつながりにくくなったほどだ。
ただし、事前の知識がないと「高精度地図」という性質と見た目のギャップで戸惑うかもしれない。見た目は非常にシンプルな、土地の区画に番号がついた図面だからだ。いったいなぜ、GISコミュニティはこの地図のオープンデータ化に強く反応したのか? 不動産業界だけのものではないのだろうか? 土地利用の意識を大きく変革する可能性を秘めた、登記所備付地図データの意味を解きほぐしてみよう。
登記所備付地図とは?
不動産登記には、地目(土地の用途)、地積(面積)といった不動産の物理的状況と、土地の位置や区画(筆界)を明確にするため、登記所である法務局に精度の高い地図が整備されている。不動産登記法第14条第1項の定めによる「地籍調査」というこの整備事業は、まだ全国で進行中。これまで使用されていた地図(公図)と現況が大きく食い違っている地区について、順次正確な地図に更新する作業が毎年実施されている。
「公図」とはつまり、土地登記の資料となる「地図に準ずる図面」だが、課税の土台になる土地台帳の付属図面という大切な図面が、なぜ正確でないということがあるのだろうか。事情は明治初期にさかのぼる。
明治6年から始まった地租改正事業では、測量を行って土地の位置を表す図面の「公図」を作成した。しかし、このころの測量は現代よりも精度の劣る縄を伸ばして行う方法で、「縄延び」と呼ばれる誤差や、実際は複雑な土地の形を四角形とみなして計算しやすくして面積を求めたときの誤差などが発生していた。土地登記の原点となる「和紙公図」には、こうした事情から実情とのズレが多く含まれている。
現在の公図は電子化されていて、一見すると近代化が進んだようだが、その中には多数の和紙公図をポリエステルフィルムに写した「マイラー公図」と、マイラー公図の電子化データが含まれている。つまり、データ化されたとはいっても大元は明治時代の公図であって、測量技術が未熟だった時代の不正確さがまだ多く残っているのだ。形状が正確でなかったり、地図の接合関係が不明確で正確な位置を特定することができないといった問題が残されている。
地籍調査で公図をより正確な地図に更新すると、土地の利用に変化があったときにさまざまなメリットがある。まずはなんといっても災害後の復旧だ。土地の境界点は公共座標値(世界測地系)で特定でき、災害復旧の際に土地の区画をきちんと復元することが可能になる。これは再開発の際にも有効だ。また隣同士と境界紛争がおきたような場合でも、公的な記録を参照して解決でき、土地を譲渡する場合にも測量をやり直す必要がなくなる。
公共性の高い登記所備付地図だが、これまで利用する場合には法務局に出向いて地図の写しを書面で交付してもらう、または登記情報提供サービスを利用して、表示された情報をPDFファイルでダウンロードするといった手順が必要だった。窓口以外にもオンライン請求が可能ではあったものの、土地の区画ごとに細かく申請する必要があり、データを加工できる形での配布にはなっていなかった。かなりのマンパワーを要する作業だったのだ。