共鳴吸収は、物質が特定のエネルギーにおいて中性子を吸収する性質のことであり、そのエネルギーは物質の種類に依存することから、共鳴吸収が起きたエネルギーがわかれば物質の種類を同定することが可能とされるほか、共鳴の強さから、試料中に含まれるその物質量を知ることもできる。
レーザー中性子源の長所の1つは、従来と比較して中性子パルスの時間幅が短いという点にあり、パルス幅が短い場合、飛行時間計測法において時間分解能が高くなり、計測に必要な距離を短くできることから、検出器の設置距離は、従来なら最低でも10mは必要だったところが、今回の研究では1.8mで済んだという。
実験では、中性子の飛行経路上に、タンタル、銀、インジウムの板が設置され、透過中性子のエネルギーが計測され、3種類の金属それぞれに対応するエネルギーの中性子吸収が確認されたという。これは、レーザー中性子源が、未知の素材の元素識別とその量を測定可能であることを示す成果だという。
こうした成果について研究チームでは、レーザープラズマから中性子生成までのメカニズムの理解に寄与するだけでなく、レーザー中性子の強度を上げるための指針を与えるとしており、将来的には、レーザー中性子源が研究室や工場などに設置されることが期待されるとするほか、レーザー中性子源の特徴である短パルス性を活かして、飛行時間測定装置の飛行経路長を1.8m以下に短くできることが示されたことから、システム全体の小型化につながることが期待されるともしている。
また、加速器による従来の分析では、数時間の計測時間が必要であったほか、数時間における平均情報しか得られなかったが、今回の手法なら約1000万分の1秒で計測できるため、短時間で発生したり変化したりする現象も把握できるとしている。例えば、中性子共鳴吸収の信号構造から測定対象の温度を評価できるため、動作中の工業製品の異常な温度上昇を捉えるなど、これまで不可能だった計測も実現できるという。
さらに、今回計測されたインジウムなど、動作中の機器で利用されている元素のその部分だけを選択的に計測することも可能になるとしているほか、電気自動車などに使用される充電池の異常昇温の検知もできるようになることから、今後、現代文明に欠かせない多種多様な機器の性能向上や信頼性向上に役立つことが期待されるとしている。