具体的には、マンガンイオン、過酸化水素、ヘキサメチレンテトラミンなど、いずれも安価で入手できる物質を水に溶かし、この液体に基板を入れてフタをし、乾燥機(加熱機)の中に入れて85℃で数時間置くという簡便かつ低温で済む手法の開発に成功。これにより、極めて高密度で単結晶性の「MnOOHナノワイヤー」を基板から成長させることができたとする。
また、この材料を400℃程度で加熱処理をすることによって、単結晶性NWA構造を保ったままで、マンガン酸化物の中で高い触媒活性を有することで知られる「β-MnO2 NWA」へと変換することにも成功。分光学的な測定の結果、β-MnO2 NWAは、可視域から近赤外域の広範囲にわたる光を吸収することが判明した。
さらに、合成されたNWAの触媒活性の評価として、生体中に含まれるさまざまな金属イオンや生体分子の検出にも利用されている、「o-フェニレンジアミン」(OPD)から「2,3-ジアミノフェナジン」(DAP)への酸化反応を用いて、β-MnO2 NWAのフォトサーマル触媒活性の評価として、OPD溶液中にβ-MnO2ナノ粒子を分散させ、光照射下・暗所下の両方で触媒活性が評価されたところ、光照射でも活性が1.1倍とほとんど増加せず、β-MnO2ナノ粒子はフォトサーマル触媒としてほとんど機能しないことが判明した。
一方、同様の実験がβ-MnO2 NWAに対して行われたところ、光照射下における活性が向上し、2.5倍となったことを確認。これは、ナノ粒子の分散液と薄膜で、光照射されて触媒反応が進行する体積に大きな差があることを考慮しても、従来の発想では得られない活性向上が達成できていると研究チームでは説明しており、その理由として以下の2点が考えられるとしている。
1つ目は、NWAの特異な3次元構造により、入射光が多重散乱され、極めて高効率にβ-MnO2に吸収されたためというもの。2つ目は、ナノワイヤーが高密度で成長したβ-MnO2 NWAでは、近傍に密集して存在するナノワイヤー同士による熱エネルギーの集中が起きたためというもので、これはナノ粒子の分散液とまったく異なる光熱変換プロセスが達成できていることが示されているとしている。
なお、今回の研究から、可視光のみならず近赤外光も吸収でき、かつ高効率なフォトサーマル触媒の開発にも成功したことから、研究チームでは、今後の触媒開発にさまざまな示唆をもたらすことが期待できるとしているほか、マンガン酸化物は触媒のみならず、リチウムイオン電池の電極など、多くの機能を示す材料であり、手軽に合成できるマンガン酸化物NWAは、今後、電池やセンサー、熱電変換など、さまざまな分野での利用が期待されるとしている。