この観測ターゲットとなる4つの衝突銀河は、可視光線ではそれほど明るく輝いていないが、赤外線域では非常に明るく見える「高光度赤外線銀河」だ。赤外線の放射源やその成因・性質についてはまだ不明な点も多く、GOALSプロジェクトはその解明を目指している。

今回観測されたうちの1つであるIIZw096は、稲見助教が12年前にNASAのスピッツアー宇宙望遠鏡(2020年に運用終了)を用いて、ハッブル宇宙望遠鏡では見えなかった巨大な赤外線エネルギー源の存在を特定した衝突銀河だ。しかし、スピッツアー宇宙望遠鏡では空間分解能が足りず、ハッブル宇宙望遠鏡では中間赤外線よりも長い波長での観測ができないため、放射源の正確な場所やその大きさまで特定することができていなかったという。

そこで今回用いられたのが、スピッツアー宇宙望遠鏡よりも感度が100倍高く、主鏡の直径が6.5mとハッブル宇宙望遠鏡より2.5倍も大きいJWSTである。そしてその性能により、IIZw096のエネルギー源の正確な位置を突き止めることに成功した。またこのエネルギー源は、非常にコンパクトで小さな領域に集中していることも判明。そサイズは、大きくてもおよそ570光年と見積もられた。同領域は、直径6万5000光年あるIIZw096と比較すると1/100にも満たないにも関わらず、赤外線放射において同銀河の約70%ものエネルギーを占めていたのである。

  • (左)紫外線と可視光線で見たIIZw096で、エンジンはダストで隠されて見えない。(右)赤外線観測によって初めてその存在が確認されたエンジン。上は12年前にスピッツアー宇宙望遠鏡により得られた赤外線画像で、下が今回JWSTで得られた赤外線画像

    (左)紫外線と可視光線で見たIIZw096で、エンジンはダストで隠されて見えない。(右)赤外線観測によって初めてその存在が確認されたエンジン。上は12年前にスピッツアー宇宙望遠鏡により得られた赤外線画像で、下が今回JWSTで得られた赤外線画像(出所:広島大プレスリリースPDF)

さらに同領域が特徴的なのは、IIZw096の中心から外れた場所に存在しているという点だ。莫大なエネルギーを発する銀河のエンジンとして、通常なら銀河中心に位置する大質量ブラックホールが想像される。実際、活動銀河核やクェーサーなどのエンジンは、貪欲にガスなどを飲み込んで活発に活動している大質量ブラックホールと考えられている。

なお研究チームは、今回のような中心から外れたエンジンは、衝突銀河としても非常にレアだとする。これまで観測された限り、衝突銀河で赤外線による巨大エネルギーを発生させている領域は、銀河中心もしくは銀河同士が衝突している境界面である場合が大半を占めるといい、IIZw096のように外れた場所に位置する領域にも関わらず、銀河全体からのエネルギーの半分以上を放射しているようなケースは類例があまりないとしている。

研究チームは現在、このエネルギー源の成因や性質の解明を目指すため、JWSTによる分光観測データの解析を進めているとした。

  • 今回の研究は、4つの衝突銀河を観測する、JWSTの早期科学観測プログラムの一貫として実施された。銀河衝突によって星形成やブラックホールがどのように形成され進化するのか、また銀河の性質がどのように変化するのかを調査するというものだ。IIZw096の分光観測も実施され、巨大なエネルギーの成因や性質の解明を目指し、現在も研究が進められている

    今回の研究は、4つの衝突銀河を観測するJWSTの早期科学観測プログラムの一貫として実施された。銀河衝突によって星形成やブラックホールがどのように形成され進化するのか、また銀河の性質がどのように変化するのかを調査するというものだ。IIZw096の分光観測も実施され、巨大なエネルギーの成因や性質の解明を目指し、現在も研究が進められている(出所:広島大プレスリリースPDF)