そして、変形性膝関節症において高位脛骨骨切り術が施行された患者10名の軟骨欠損部へ、この細胞シートの移植が行われた。その結果、全例で術後1年の安全性・有効性が確認されたと同時に、組織学的にも硝子軟骨での再生軟骨の生成が確認された。また、移植された同種軟骨細胞シートの免疫組織学的な検討、細胞表面マーカー、遺伝子発現プロファイル、ならびに細胞シートが分泌する液性因子の分析などの詳細なデータをもとに、同種軟骨細胞シート移植の有効性に関与する遺伝子群も同定された。

2019年に発表された時点での自己細胞シートでは、患者本人からの軟骨細胞の採取手術が必要だったが、今回作製された同種軟骨細胞シートでは採取手術が不要だ。また、自己細胞シートでは作製できる細胞シートの枚数が限られており、適応条件として軟骨欠損部の大きさに制限があったが、同種軟骨細胞シートではあらかじめ十分な枚数を確保できるため、軟骨欠損部の数や大きさの制限なく移植することが可能となった。今回移植が実施された中にも、軟骨欠損が複数個所に認められる症例、あるいは合計で20cm2を超えるような大きな軟骨欠損部がある症例なども含まれていたという。

変形性膝関節症は国内で800万人以上の有症状者がいるとされており、高齢化に伴って今後も患者数の増加が予想される。同疾患は、緩やかに進行する変性疾患ではあるものの、軟骨欠損に対する有効な治療法はこれまでのところ開発されていなかったため、同種軟骨細胞シート移植による再生医療は、人工関節ではなく生物学的な根本治療といえる「関節温存」としての期待が大きいという。

研究チームは、より多くの患者にこの治療を提供できるよう、現在はセルシードと共同で医薬品、医療機器などの品質、有効性および安全性の確保などに関する法律(薬機法)の下での製品としての承認取得を目指して、企業治験を実施するため、医薬品医療機器総合機構(PMDA)との協議を重ねている段階とした。