有機金属錯体としては「ルテニウムテトラホスフィン錯体」が基盤とされ、金属錯体の数(n)や架橋した有機配位子上の置換基(R)が異なる錯体が複数作成された。そして、それら有機金属錯体の自己組織化単分子膜が金基板上に作成され、もう一方をガリウムインジウム共晶(EGaIn)液体電極で封止した「金-有機金属錯体-EGaIn構造」が、ゼーベック係数の測定サンプルとされた。
金電極が加熱され、温度勾配により生じる起電力を計測することで評価が行われたところ、ゼーベック係数は金属錯体の数が増えるにつれて向上し、金属錯体を3つ持つ(n=3)三核錯体では73μV/Kと、これまで報告された分子(~40μV/K)を上回る高い値が示されたという。また二核錯体では置換基を入れることでゼーベック係数も変調でき、無置換体(R=H)が最も高い値を示したとする。
このように、ゼーベック係数は分子骨格に対応して大きく変化することから、有機金属錯体を用いることで合理的にゼーベック係数を制御可能であることが明らかにされた。
また、既報のデータを電極のフェルミ準位との差(E-EF)から比較したところ、有機金属錯体ではHOMOがフェルミ準位に近づくにつれて加速度的にゼーベック係数が向上していることが判明。特に金属錯体数(n)を増加させることで、金属間相互作用により分子が電子豊富となることで、HOMOがフェルミ準位に近接したことが実験、計算科学の両手法により解明された。
さらに、有機金属錯体が高い熱耐久性を示すことも確認された。アルカンチオール自己組織化単分子膜では50℃までしか耐熱性を示さないのに対し、有機金属錯体では150℃まで加熱しても分解が見られなかったという。150℃付近における起電力は3.3mVとなり、単分子膜として非常に高い起電力が示されたとする。
今回の研究では、有機熱電変換材料の開発に向けて、ゼーベック係数を向上させる分子-界面設計指針を示すことができたと研究チームでは説明している。また、汎用的な有機自己組織化単分子膜に比べて高い耐熱性を有することから、広範な温度範囲での熱電変換が期待できるとしており、今回の研究で得られた知見を基盤として、電気機器などからの廃熱を利用した微小発電機といった身の回りのわずかなエネルギーを電力に変換する環境発電技術への貢献が期待できるとしている。
なお、今回は正孔(ホール)輸送性の材料が開発されたが、熱電変換デバイスの実現には電子輸送性材料も必要であり、分子の探索を進める必要があるとしているほか、、熱電変換材料には高い電気伝導度や低い熱伝導率といった異なる要素も重要となることから、これらすべての要素を兼ね備えた、新たな熱電変換材料の開発へ向けて検討を進めていきたいとしている。