東京工業大学(東工大)は1月12日、有機物と金属錯体を組み合わせた「有機金属錯体単分子膜」の熱電変換性能を測定し、熱電変換材料の性能指数の1つである「ゼーベック係数」が、単分子膜材料として世界最高クラスの性能を示したこと、ならびに金属錯体の数を増やすことで同係数が増大すること、耐熱性の高さなどを見出したことを発表した。
同成果は、東工大 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の田中裕也助教、韓国・高麗大学のユン・ヒョジェ教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するナノサイエンスとナノテクノロジーの基礎から応用まで全般を扱う学術誌「Nano Letters」に掲載された。
工場や自動車などの、さまざまな場面で生じる未利用の排熱を電気エネルギーへと効率的に変換する「熱電変換技術」の研究が世界各地で進められている。排熱を電力に変換できればエネルギーのより効率的な利用が可能になることに加え、化石燃料に依存しない自律的な電源供給源となり得ることから、振動発電と並ぶ環境発電技術の一種として、IoT機器の電源などにも期待されている。
従来の熱電変換技術は、金属や半導体に与えられた温度差が電圧に変換される現象である「ゼーベック効果」を用いて開発されてきた。熱電変換材料としては無機半導体が用いられてきたが、近年、軽量性、安全性の観点から有機材料が注目されるようになってきたという。しかし、有機材料のゼーベック係数は小さい値に留まっており、優れた熱電材料になり得る分子-電極界面構造の設計指針の確立が求められていた。
こうした背景のもと東工大の田中助教は最近、有機金属錯体が優れた単分子電子移動能を示し、これが電極とフェルミ準位の間の小さなエネルギー差により生じることを解明。そのことから、有機単分子膜が小さいゼーベック係数を与える理由として、分子軌道と電極のフェルミ準位との大きなエネルギー差に起因すると考察していた。そこで今回は、有機金属錯体を熱電変換材料に用いることで、高いゼーベック係数の実現が可能ではないかという仮説のもと、研究を進めることにしたという。