具体的には、独自開発の装置を活用して、複数の高調波を含むアト秒レーザーパルス列(高次高調波)の発生方法を制御することにより、2つのイオン化過程のみの干渉が起こるようにし、このパルスを気相の原子に当てることで、それぞれの過程で異なる対称性を持った電子波動関数を生成。それぞれの波動関数は干渉し、その様子は高次高調波と赤外光との時間差を変えることで変化することから、その変化から位相と振幅を決定。2次元の運動量上にマッピングしたところ、複素数の波動関数Ψを得ることに成功。振幅と位相、または実部と虚部という2つの量で特徴付けられる複素数の波動関数を1枚の図で表現するために、HSV(色:hue、saturation、明るさ:value)表示を用いたという。

  • 測定された複素数の波動関数のHSV表示

    測定された複素数の波動関数のHSV表示 (出所:早大Webサイト)

また、測定された波動関数Ψは、それぞれの過程ごとによって生成した波動関数の積になっているとのことで、研究チームでは、測定された波動関数Ψを、それぞれの過程のイオン化過程によって生じた電子波動関数ψaとψbとに分けるアルゴリズムを開発。特徴的な6つのピーク構造の内側と外側の位相の違いが、主に2つ目の過程によって生成されたψbの位相が異なっていることによって生じた、ということが判明したとする。

  • 新開発のアルゴリズムによって個々のイオン化過程にわけた波動関数

    新開発のアルゴリズムによって個々のイオン化過程にわけた波動関数 (出所:早大Webサイト)

なお、研究チームでは、今回の測定された電子波動関数は、ネオン原子内の他の電子や、イオン核との相互作用が顕著な、低エネルギーの電子のものであり、こうした電子相関過程が大きな場合は、最新の計算機でも、その正確な計算が困難になるとするほか、計算結果と比較するためには、今回の研究で示されたような位相を含めた複素数としての物理量を測定することが必要になるとしており、量子コンピュータなどの計算アルゴリズムの発展や、その検証に使えることが期待されるとしている。また、アト秒レーザーパルスはテーブルトップで極端紫外領域~軟X線領域の光を発生できることから、電子の位相分布や複素数の波動関数イメージングをもとにした、新たな位相・運動量分解光電子分光法や物質測定・量子状態の測定法の開発につながることが期待されるほか、複素数の電子波動関数がわかることにより、新たな機能を持つ分子の創生や、より高輝度の蛍光物質の作成などが期待されると説明。今後、今回の気相の原子についての測定と同様の原理を用いて、配列した気相の分子や固体試料でも同様に、電子の位相分布を求める方法を開発を目指すとしており、そうした取り組みを通じて、時空間でのイメージングを可能にする「アト秒位相分解・光電子顕微鏡」の作成などにつなげていきたいとしている。