北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)と早稲田大学(早大)は12月19日、自宅近隣の犯罪や交通に関した安全性に対する認知、そして交通機関へのアクセスや近隣の歩きやすさに対する認知などを用いて調査を行い、これらへの認知を向上させることが、日本人中年者のうつ症状の発症リスクの低下に影響を与えることを明らかにしたと発表した。
同成果は、JAIST 創造社会デザイン研究領域のクサリ・モハマドジャバッド准教授、早大 スポーツ科学学術院の岡浩一朗教授、同・石井香織教授、東北大学の中谷友樹教授、同・埴淵知哉准教授、筑波大学の柴田愛准教授、文化学園大学の安永明智教授、カナダ・カルガリー大学のGavin R. McCormack准教授、JAIST 副学長の永井由佳里教授(同・大学 イノベーションデザイン国際研究センター長兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、ランドスケープと都市計画に関する幅広い分野を扱う学術誌「Landscape and Urban Planning」に掲載された。
うつ病は身体的健康やQOL(生活の質)にも悪影響を及ぼす精神疾患として知られ、その病患者は全世界で約3億人と推定されている。日本国内だけでなく、世界規模でその予防対策が喫緊の課題となっている。
このようなうつ症状を含めたメンタルヘルスに対し、「建造環境」がその増進に持続的に貢献できる可能性があることが以前から知られていた。建造環境とは、人々の日常生活、仕事、余暇を支える人工的に作り出された都市空間のことをいう。その内容は、道路などのインフラ、市街地の広がり方、施設へのアクセス、土地利用の構成など、多岐にわたる。
これまでも、建造環境が人々の健康に与える影響について研究がなされてきたが、日本人中年者を対象とした、うつ症状の予防に貢献する建造環境の在り方を検討した研究の例は少なかったという。そこで研究チームは今回、日本人中年者に焦点を当て、主観的・客観的指標を用いて、自宅近隣の建造環境が与えるうつ症状への影響についての検討を行うことにしたとする。
今回の研究では、東京都江東区と愛媛県松山市のそれぞれに在住する40~64歳の成人日本人のうち、同意を得た人を対象に実施され、対象者の抑うつ症状を調査票を用いて評価が実施された。
また建造環境は、客観的指標(人口密度、道路交差点の数、銀行、スーパーマーケット・コンビニエンスストア、レストランなどの生活関連施設の数)と、調査票によって回答を得られた主観的指標(自宅近隣の公共交通機関へのアクセス、犯罪に対する安全性、景観、歩きやすさなどに対する認知)によって、それぞれ評価された。