そこで研究チームは今回、研究事例や地点観測データが少ないガーナ北東地域のホワイトボルタ川を対象に、温暖化後の降雨・河川流量・浸水面積の変動の予測および汎用性の高い予測モデリングの構築を行うことにしたという。研究対象は、2020年9月にホワイトボルタ川流域の「Upper East」地域において発生し、死者5名・家屋倒壊1500棟以上という被害を及ぼした洪水とされた。

まず、降雨と河川の流量を算定するモデル「WRF-Hydro」と、河川における氾濫流の解析を行う2つのモデルを用いることで、実際に起きた現象の再現計算が行われた。そして、得られた浸水域の算定結果は、欧州宇宙機関が運用する地球観測衛星「Sentinel1-A」のSAR画像から取得された浸水域と比較され、モデルの予測が高い精度で行われたことが確認された。

  • (左)河川氾濫の数値計算結果と衛星画像(SAR)の比較。(右)温暖化後の数値計算結果

    (左)河川氾濫の数値計算結果と衛星画像(SAR)の比較。(右)温暖化後の数値計算結果(出所:新潟大プレスリリースPDF)

その後「擬似温暖化実験」を用いて、将来の気候における気象の予測が行われ、温暖化後の各値の変動が評価された。対象としたイベント(2020年9月7日~14日)では温暖化後の気象条件下で降雨は平均20%、ピーク河川流量は平均5%、浸水面積は平均4%増加することが予測された。

研究チームは今後、今回の研究で構築されたモデルをほかの河川にも適用し、領域的な流域氾濫の温暖化影響評価を世界各地において行うとする。また、河川の流量を数値計算で予測するためには、計算モデル内のパラメータを適切に設定することが重要だという。ただし、適切な値は地域の特性によって異なるため、多くの研究では観測データと計算結果を比較して誤差を少なくするよう数値計算が行われている。そのため、今回のように国外を対象とした研究では観測データを得られない場合がほとんどであるため、衛星データなど、比較的入手しやすいものから客観的にパラメータを決定することができれば、多くの地域で信頼性の高い予測が可能になることが考えられるとした。