具体的には、中間赤外線観測装置の中分解能分光モードを用いて、波長5μm~28μmの赤外線吸収スペクトルが取得された。そのスペクトルには、水、二酸化炭素、メタン(CH4)などの単純な分子のほかに、これまでの観測では確定できていなかったホルムアルデヒド(H2CO、波長6.7μm)、メタノール(CH3OH、波長9.74μm)、ギ酸(HCOOH、波長7.24μm)などの有機分子による吸収も明確に認められたという。
また、ほかの分子による吸収線と混合しているものの、エタノール(C2H5OH)やアセトアルデヒド(CH3CHO)など、より複雑な有機分子による吸収の影響を受けていると思われるスペクトルも得られたとする。これらの有機分子は、最終的には原始惑星系円盤に取り込まれる可能性があるという。
さらに、水素(H2)、一酸化炭素(CO)、電離したネオン(Ne)や鉄(Fe)などについては、吸収ではなく発光のスペクトルも検出されたとする。これは、原始星周辺の温度や衝撃波領域の有無、原始星から放出された物質と周囲のガスとの相互作用なども調べられることを意味すると研究チームでは説明する。
実際、今回の観測では偶然ながら原始星から噴き出したジェットによって作られた殻状の痕跡を発見することにも成功したという。これまではぼやけて形がほとんど確認できなかったが、JWSTの高感度により初めて殻状になっている様子が明確に捉えられ、原始星から放出されたガスによる衝撃の様子が解明されたとする。
今後について研究チームでは、詳細なモデルやガス中に含まれる類似分子との比較研究などが進めば、「はやぶさ2」が検出した太陽系始原物質に含まれる複雑な有機分子の起源との関連についても解明が進むことが期待できるとしている。
また、今回の観測から、氷の存在量を導き出すことが非常に複雑であることも示されたとしており、今後、実験室での測定と数値モデルを用いて、検出されたスペクトルの特徴をモデル化することで、氷の存在量を推定することを検討中としているほか、今回得られたデータは、4つの原始星にある氷の特徴をJWSTで総計25時間にわたって観測した上で比較するという、ヤン研究員らの計画の一部であり、残りの3つの原始星の観測を2023年春に行うことを予定しているとする。
なお、IRAS15398-3359を取り巻くガスには、塵に付着した氷から蒸発したメタンにより生成されたと考えられる不飽和有機分子が、ほかに比べて多く存在しているとのことで、4つの原始星の観測結果がそろえば、ガスと塵表面の氷の両方の化学組成の関係を詳細に比較できるようになり、原始星ごとの化学組成の違いの原因も解明できる可能性があるという。